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私は少し大きな声で、ドアの向こうのお兄ちゃんを呼ぶ。
「お兄ちゃん、カレー作るから手伝ってー」
「ほーい」
ドアの向こうからくぐもった返事が聞こえて、お兄ちゃんが部屋から出て来た。
お兄ちゃんはローチェストの一番上の引き出しから二人分のエプロンを取り出すと、一つを私に向かって放り投げる。
私は裾が緩やかなフリルになっている、お気に入りの紺色のエプロンを着けながら、お母さんに言った。
「お母さん、今度お兄ちゃんとおじいちゃんおばあちゃん家に遊びに行って来るね」
あの女の人を調べていることをお母さんには話す訳には行かないけど、おじいちゃんおばあちゃんの家に行くこと自体は敢えて隠さない方がいい気がした。
黙っていればわからないことだし、おじいちゃん達にも口止めしておけば済むことだけど、もしおじいちゃん達がうっかり口を滑らせたりしたら、きっとお母さんは変に思うだろう。
そうしたら、どうしてこっそりおじいちゃん達に会いに行ったのか、問い質されるに違いない。
お母さんには仕事があって、ずっと私の行動を見張るなんてことはできないから、どんなに反対されたところで調査を続けることはできるけど、お母さんを怒らせたり、悲しませたりしたくなかった。
それなのにそういうことが起こり得る行動をするのは、我ながら矛盾しているし、欺瞞でもあると思う。
でも、「裏切り」と言う程酷いことをしている訳ではないと思いたかった。
お父さんに愛人がいたかも知れないことは、お父さんとお母さんの問題で、私が口を出すようなことじゃないのかも知れないけど、私だって家族な訳で、知る権利はある筈だ。




