表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/126

―32―

「只今ー」

 

 玄関の方からお母さんの声がした。


 スマートフォンの時計は十八時十七分。


 日勤の日は十七時前に仕事が終わるし、勤め先の病院は歩いて行ける距離だけど、残業で暗くなる前に帰って来られない日も多い。


 でも、今日はそれ程忙しくなかったみたいだ。

 

 私はスマートフォンをポケットにしまうと、持ってきた麦茶を手にお兄ちゃんの部屋を出た。


 普段私が掃除以外でお兄ちゃんの部屋に入ることはあまりないから、お母さんにお兄ちゃんの部屋にいるところを見られたら、変に勘繰られかねない。


 あの女の人を調べていることは、できればお母さんには知られたくなかった。


 きっといい顔はしないだろうし、反対されるかも知れない。

 

 私はテーブルに歩み寄ると、窓側の椅子に腰を下ろした。


 そこが私の席なのだ。


 私が何食わぬ顔で麦茶を飲んでいると、お母さんがドアを開けて入って来た。


 毛先が落ちないように後ろで一つに纏められた、セミロングの黒髪。


 淡い茶色のVネックのTシャツは、裾が内側に縒り合わされた、少し変わったデザインだ。


 大ぶりの黒と茶色のネックレスの鎖が華やかさを添えていて、パンツの白さが目に鮮やかだった。


 お母さんはもう四十代半ばだけど、疲れた感じもなくて、年の割に若々しい。


 いつもピンと伸びた背筋と、きっぱりした性格を感じさせる綺麗な顔立ちが、お母さんをいかにも『強い女性』に見せていたけど、私はその強さの中にどこか危うさも感じていた。


 ダイヤモンドは固い反面脆いと言うし、ただ強くて頑丈なだけの人はいないだろう。

 

 お母さんはパンパンに膨らんだうさぎのキャラクターのエコバッグを冷蔵庫の前に置くと、溜め息交じりに言った。


「あー、疲れた」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ