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お母さんは私達の知らないところで、きっとたくさん苦しんで、悩んで、私達を放り出したくもなったと思うけど、それでも毎日頑張って働いて、親としての務めを果たしてくれている。
それだけで十分で、これ以上のことを望むのは、それこそ「酷い」だろう。
成長するにつれて、もしかしたらあの女の人とお父さんの間に疚しいことは何もなくて、間違っているのはお母さんの方なのかも知れないと思うようにもなったけれど。
単に私が覚えていないだけで、お父さんがあの女の人と不倫していたやり取りを耳にしていた可能性はあるものの、あの時の私は子供過ぎて、そんなものを聞いていたとしても理解することはとてもできなかっただろう。
でもお兄ちゃんは私より五つ上だから、事件の詳細をある程度理解できていたと思うし、あの女の人のことも何か聞いているかも知れなかった。
「お父さんが死んだ時、お父さんと一緒にいた女の人が誰か知ってる?」
「知らねえ」
お兄ちゃんはそう言って、私を見た。
お兄ちゃんはお父さんによく似ている。
整った顔立ちに、優しそうだけど、どこか飄々として掴みどころのない雰囲気。
細身だし、何だか風にそよぐ柳の木みたいだった。
元々お父さん似だと思っていたけど、お父さんが死んだ年に近付くにつれて、お兄ちゃんはますますお父さんに似てきた気がする。
人といるより一人の方が気楽でいいみたいだし、彼女ができたという話は聞いたことがないけど、案外私が知らないだけで、そういう人がいるのかも知れなかった。
余所に愛人がいる素振りなんて全然見せずに、平然と私達を裏切っていたのかも知れないお父さんの息子なのだから。
私がそんな皮肉めいたことを考えているなんて、夢にも思っていないであろうお兄ちゃんは、再びキーに指を走らせながら続けた。




