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「だからさ、路銀がないなら一緒の部屋に寝泊まりするべきだと思わない。」
「いやいやいや。」
キハールに着いたのは夕暮れ頃であった。
馬車で2、3時間かかる道を徒歩で移動したため丸一日掛かってしまった。
シノという心強い護衛も付いた事に慢心し馬車に乗るのもお金が掛かると、出し渋った私が悪いのだがとんでもない疲労感である。そもそも、勇者のパーティーでは馬車移動が基本だったのでこんなに歩いたのは久々だった。
疲労感を露わにしている私。それを見かねたシノがすぐさま宿を取ろうと提案し、やっぱり旅慣れしているなと感心した後のこれだ。
「だって、一緒に旅していた頃は同じところで寝てたよね。」
「人聞きが悪いこと言わないでくださいよ、あれは野宿だったからでしょう!」
「え〜〜。」
「え〜〜じゃないですよ。」
ロビンと旅をしていた時は最初こそ同じ部屋でロビンと寝ることはあったが、旅が進むにつれ男女別々の部屋に割り振られていた。何処から援助されているかは知らないが、お金にはあまり困った覚えがなかったので寝床でこんな問答をしたことが無い。
「え〜〜、路銀がないなら同じ部屋で半分づつお金出した方が得とは思わないの?」
「…し、シノ。待ってください、そもそも私達は男女ですよ。」
「別にいいじゃん。」
「婚前の男女が同じ部屋は世間体が悪いでしょう…!」
「別に、俺たち仲間でしょ?」
「もう、その手には乗りませんよ!!」
「何?ラーナ、俺に襲われるとでも思ってるの?」
「別に思ってません!!」
「顔真っ赤。」
けらけらと笑うシノに対して私は顔が赤くなるばかり。これは、確実に揶揄われている。
分かっている、同じ部屋の方が安いのも路銀を節約しなければいけないのも。
でも、やはり男性と同じ部屋で夜を過ごすのは緊張するのだ。
ロビンと仕方なく宿で同じ部屋で寝た時も、心臓が煩くなかなか寝付けなかったのにロビン以外の男性だなんて身体が絶対に休まるはずがない。
「か、からかわないでくださいよ。シノ…。」
と、羞恥から赤く染まっているであろう顔をシノに見せないよう手で隠し話す。
そもそも、村ではロビン以外の年の近い男の子なんていなかったし、年の近い男性としゃべる機会なんて全くなかった。勇者のパーティーでも男性はいたのだが、私が弱いからなのか相手にされず中々話す機会がなかったのだ。
パーティーにいるときにロビン以外で唯一まともに話せる男性と言えばシノだったのに、それでもこの有り様だ。
手の隙間から、シノの顔覗く。
そこには、眉間に皺を寄せてこちらをみるシノがいた。
目が合うと、一瞬でいつものような笑顔になる。
「うそうそ、揶揄っただけだし。」
「は、あ…。」
頭の後ろ手を組み、シノは宿屋がある方へ進む。
その後ろ姿を追い歩いた。
◇◇◇
無事、一人部屋を手に入れシノと別れた私はベッドの上で寝転がっていた。
一人になり、少し物悲しさを感じていた。
ロビンから別れ、一人きりで過ごす夜を何度か過ごしてきたがやはり身近に人の気配がないのは寂しかったのだろう。シノが居るというだけで、安心感を得ることが出来ていたのだと実感した。
彼らは今どうしているのだろう。
身勝手に、パーティーを離脱した私に考える資格があるはずもないのだがこの世界を救うために戦っている彼らをどうしても忘れる事はできなかった。そしてもちろん、思い人であった彼のことも。
別れる時に何度も何度も考えたので、自分で踏ん切りを付けれたのだと思っていたのだがそう簡単にはいかないものなのだと思った。
やっぱり、パーティーを離脱するなんてやめた方が良かったのではないかという考えさえよぎる。
彼の思いを裏切ったことも、世界を救う旅を諦めたことも覚悟の上とはいえ罪悪感を感じてはいた。
人と触れ、安心感を得たからそう感じたのだろう。
と考えることにして布団を被り目を瞑る。
「やっぱり、ひとりはさみしい。」
その言葉は闇に消えた。