リビングアーマーの中にいる人間の子供の霊はブルブル震えている
俺はリビングアーマーだ。がらんどうの鎧が動いている魔物、いわゆる生きている鎧ってやつだな。俺は昔、生まれたばかりのころに、人間の子供の霊を拾ったんだ。俺はその子を鎧の中に入れて保護してた。そして気が付いたら取れなくなっちまってた。理由はよくわからんが融合してしまったみたいだ。
人間に擬態した俺達は、いつものように冒険者ギルドへ向かう。
「こんにちはリアンさん。いつも頑張ってますね。はい、受け付けました。ご安全に!」狐獣人の受付嬢ミコンが笑顔で対応してくれる。
「ああ。気を付けて魔物討伐してくる」《ブルブルブルブル…………》俺の中の子供の霊が震えている。結果、俺の体も震えたので、俺は緊張しているように見えたかもしれない。
子供はいつもブルブル震えていた。俺も小さかったからよくはわからないが、昔大災害があって、人も魔物も沢山死んだらしい。その時の恐怖が原因で震えているのかも。あるいは、親に虐待されて苦しくて震えてるのかも(昔から人間の世界では、親の虐待がずいぶん問題になってるみたいだから、その可能性もあると思う)。子供は、霊体を固くして震えているだけで何もしゃべらない。なので、俺には震えてる理由までは分からない。
「ギャアアアーーー!!」剣で切り裂かれ倒れるゴブリン達。
リビングアーマーであることがバレないように俺は目立たないようにしていた。そのため冒険者としての等級は低い。だがリビングアーマーは上級魔物なのでソロで戦ってても低級な魔物に苦戦することはなかった。
《ブルブルブルブル…………》ただ、何をしている時でも俺の中の人間の子供の霊は震えているので、それが気になるって言えば気になった。
「はい、ご苦労様でした。こちらが報奨金です」狐獣人の受付嬢ミコンがいつものように笑顔で対応してくれた。
「ああ。ありがとう」俺はぶっきらぼうに答えた。《ブルブルブルブル…………》俺の中の人間の子供の霊は相変わらず震えている。鎧の俺も少し震えていた。
突然森から魔物があふれ出すスタンピードが起きた。最終的には軍隊が応援に来て、魔物は殲滅された。しかし町は酷いことになってしまった。俺も町の防衛に回ったが、魔物の数が多くてあちこち突破され町に入り込まれてしまったのだ。
「やられちまったなぁ」俺は臨時の避難所で荷物を運んでいた。
「そうですね」となりを歩いていた狐獣人の受付嬢ミコンが答える。
《ブルブルブルブル…………》俺の中の子供の霊が震えている。
「いつもより沢山震えていますね」ミコンが俺を見て言った。
「スタンピードがあったし、避難所で不安そうにしてる奴らを多く見たからかな」
「……自分のことなのにリアンさんは、他人のことを推測してるみたいに言いますね」ミコンは不思議そうに言う。
「そ、そうかな」図星を指されて俺は挙動不審になった。
「きゃあ!?」ミコンが悲鳴を上げた。
「何!?」それはオレにとっても不意打ちだった。高度な隠密スキルを持った魔物だったのかもしれない。町の中に生き残りがいたのだ。
『アアアーーー!!』震える以外に何もしたことのない俺の中の子供の霊が叫んだ。子供の霊は、俺の腹から外に霊体を出して魔物に体当たりした!
「グオオオオ!? !! ギュアアアアアアアーーー!!」俺は怯んだ魔物を剣で叩き切った!
「リアンさんありがとうございます。 ……それはそれとして、さっき鎧のお腹あたりから出てきた赤ん坊は何だったんですか?」
「……あれは子供の霊だ。何故だか俺に取り付いているんだ」
「除霊しようとか考えなかったんですか?」
「ないな。何もしないんだ。いつも震えてるだけのやつだ。その影響なのか俺も震えるが、それだけだ」
「そうなんですか」
「親に虐待された死んだか、昔の大災害で死んだか、どっちかだと思う。震えてるだけだからよくは分からんけどな。いつも俺の中にいるんだ。外に出てきたのはさっきが初めてだよ。何らかの意思を見せたのもな」
もしかして俺が人間じゃなくリビングアーマーだってこともバレたのかもしれなかったが、受付嬢ミコンは何も言わなかった。そんなわけで、俺は今も復興中のこの町で冒険者をしている。ブルブル震えている人間の子供の霊といっしょに。
この短編を基にした長編を始めました。
【連載版】リビングアーマーの中にいる人間の子供の霊はブルブル震えている
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