わたしのヒーロー
ゆるふわ設定でお送りします。
ここが私の大好きだったゲームの世界だと気付いたのはいつだっただろうか。
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最初はここがどこなのか全然わからなかった。
つい授業中にうたた寝をしてしまい、目が覚めたら知らない場所にいた。
目に映るもの全てが私の知る世界とかけ離れていて、訳が分からず、自分は知らないうちに死んでしまって転生したのかと思った。
けれども池に映る姿は黒目黒髪で、いつもの私の姿に転生したわけではないとわかった。
転生じゃないなら転移だろうか。
不安でしかたなかったけれど、このままではいけないと歩き出す。
視界に入る、知らないけれどどこか見覚えのある風景。
そして、神殿のような建物の付近に来た時に見えたそびえ立つ青く輝く大きな樹。
それが世界樹だと気付いたと同時に、ここが大好きなゲームの世界だと理解した。
理解した途端、私は嬉しさとワクワクが止まらなかった。
この世界に主人公達はいるのだろうか?
あわよくば彼らと会って、話をすることが出来たら……なんて。
私はその可能性に浮かれていた。
浮かれすぎて、私という存在がこの世界の異分子だという事に気づけなかった。
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「はあっ、はあっ……」
走り続けて息が苦しい。
疲れて足も動かなくなってきた。
それでもふらつく足を一生懸命動かし続ける。
どうしてこんなことになってしまったの?
さっき転んだ時に擦りむいた膝から伝わる、ジンジンとした鈍い痛みがここが現実だと訴えてくる。
私が何をしたっていうの?
私はただ主人公達に会いたかっただけなのに、この世界を楽しもうと思っただけなのに。
ああ、追いつかれてしまった…
もう逃げられない。捕まってしまう。
こんな時、物語ではよく主人公が助けに来てくれるけれど、そんな奇跡は起こらない。
なぜか?
だって、私を追っているのは主人公だから。
どうして?
私はここで死んでしまうの?
何で?
そんなにもこの世界にとって私は邪魔な存在なの?
…私はただ好きだっただけなのに、どうして。
もう駄目だ…。
ぎゅっと目を閉じてこれから起こることに身構えてると、鈍い音がした。
恐る恐る目を開けると、私の目の前にフードを被った人がいた。
その向こうには、先程まで私を追っていた彼らがうつぶせで倒れている。
何が起こったの?
もしかしてこの人が私を助けてくれた…?
「はぐれるなよ」
フードの人物は私の方に向き直ると、私の手を掴んで走り出す。
必死について行く私の後ろの方で、地面に倒れた主人公が何かを言っていた。
なんて言ったのかはわからなかったけれど、その言葉は私にではなく、フードの人物に向けられたことはわかった。
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「ここまでくれば取りあえず安全だから」
そう言ってフードを下した彼の顔を見て驚いた。
だって、彼はこの世界に居るはずがない存在。
こんなキャラが居ればいいのに…そう思って考えていた、二次創作と呼ぶにはおこがましい…私の頭の中だけに居たもう一人の主人公。
「どうして…」
あなたがここに?
あり得ない存在に驚き固まる私をよそに、彼は優しい笑顔を向けてきた。
「初めまして、俺の神様」
「神様!?」
彼の言葉にますます私は混乱を極める。
何でっ、そもそもどうしてっ?
「?ああ、それとも親って言った方が良かった?でもこの世界に俺の両親はいるし、それだとややこしいかなって」
親って言った?…じゃあ彼は、
「知ってるの?私のこと?」
「いや?知らない」
「……へっ?」
じゃあ何でそんな事を?
「あなたが誰かは知らないけれど、あなたが俺にとってどういう存在なのかはなんとなくだけど分かるんだ。…俺は今まで自分が他の皆とは何か違うと感じていた。同じように怒ったり、笑ったりしていても別ものなんだっていつも思ってた」
そう話す彼の表情は寂しそうで…
「…でも今日あなたと出会ってその理由が分かったよ。町で逃げるあなたの姿を見たときにドキッとした。この人だって思った。俺にとっての本物はあなただと」
それから嬉しそうに私を見つめる。
「教えて欲しい…俺のことを。あなたは知っているんだろう?」
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私は彼に全てを話した。彼は私が考えたキャラクターで、本当のゲームの世界に存在しないことを…。
話の途中、彼がどういった表情をしているのか私は怖くて彼を見ることが出来なかった。
話し終えた後、しばらくして彼の溜息が聞こえた。
「そっかぁ…なるほどね」
おそるおそる彼を見ると、彼は晴れ晴れとした顔をしていた。
そんな彼の顔を見て、私は思わず聞いてしまう。
「…怒ってないの?」
「どうして?」
「だって、自分は作られた存在だって言われたんだよ?それも公式じゃない、本当はいない存在だって」
なのに何でそんなに普通にしているの?取り乱したって当然なのに…。
「それでもさ。どんなに辛い事でも俺は知りたかった。自分がいったい何者なのか、どういった存在かを。だから感謝こそすれ、怒ったりなんかしないさ。…それにさっき俺は本当はいない存在だって言ってたけど…少なくともあなたにとっては違うだろう?俺はあなたにとって本物ならそれでいい」
そんな声で、そんな顔で言われたら私は何も言えない。
見た目も表情もちょっとしたしぐさも…何もかも同じ。
私が思い描いた存在がそこにいた。
「…じゃあそろそろ行こうか。このままここに居れば見つかるし」
そう言って、すぐにでもここから出ていきそうな雰囲気の彼に慌てて声を掛ける。
「まって!あなたも一緒に行くの?」
「そのつもりだけど…。じゃなきゃ誰があなたを護るんだよ」
俺がいると嫌なのか?と、ムッとした顔をする彼に「違う」と首を振る。
「だってあなたには家族がいるんでしょう?友達だって…。私なんかと一緒に居たらあなたに迷惑が掛かるわ」
私はこの世界の異分子だ。
私なんかと一緒に居たら彼が不幸になってしまう…。
私のために彼の繋がりを捨ててもらいたくない。
だというのに彼はそれが何でもない様に笑う。
「大丈夫。覚悟は出来てる。俺は何があってもあなたを護る。そう決めたんだ」
「でもっ」
「大丈夫だって。それよりも自分の心配をしなよ」
なおも引き下がろうとしない私。
そんな私に彼は困ったように眉を下げる。
「あのね、あなたが何と言おうと俺は一緒に行くよ。あなたが居なければ俺は存在しなかったんだ。あなたが居たから俺はここに居る。…だから俺は護るんだ。あなたの存在は俺がいる証明だから」
だからね、と微笑んで
「俺はあなたの主人公になるよ。あなただけの存在に」
そう言って差し出された彼の手は温かかった。
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私は今旅をしている。
私が思い描いた存在によく似た人と一緒に。
私達を受け入れてくれる場所を探して。
ある意味黒歴史…。
お読みいただきありがとうございました。




