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Emotion  作者: 白黒 赤
プロローグ
2/2

序の章

ここは、生物としての人類というカテゴリーが少数となってしまった世界。近くなく遠くない未来の現実。


「父さん、母さん!!」

マスクをつけている青年が声を大きく発する。


そこは、見渡す限り何もない世界だった。風でささやく草原も色鮮やかな緑の大地も

綺麗な建築物も。

月明かりが照らしているのは、遠方にある機械と前方に見える死んだ事を分かっていない表情をした

人間の抜け殻が2つ、隣の無表情の少女、建物の残骸と思われる瓦礫が無数に転がっているだけだ。


青い目の少女は、ゆっくり開けてから答える。

「Caution,危険難度34に上昇、ミッション成功率0.3%、撤退を推進します。

撤退においては危険難度2、ミッション成功率94.4%となります。」


120m程間隔を開けている両親を殺害したであろう機械を睨み、青年は唇を噛み頷いた。

「撤退だ。」


機械への攻撃をやめる事を決意した。

目の前の機械と両親から離れるように後ろ歩きでゆっくり後方していく。

ある程度距離を置き、手につけている腕輪の上で掌を開く。

掌を開くと空中に縮小地図が表示され、現在地から10km圏内の立体的な

地形と先程の地点で赤い点が1つ、青い点が2つ光っていた。


青年は、悲しみと悔しさがないまぜになったような顔をし、

わずかに見える人影から目を逸らして背を向けた。そして振り切るように走り出した。

それに少女はついてくるように走っている。


「何故、こんな事になってしまったんだろうか。。」

走りながら一人事を呟く青年に少女は返答する。


「Answer,人類は幾多の戦争を起こし、各国はその都度、軍事的戦力を向上し、あらゆる兵器を

創造してきました。棒、剣、槍、銃、大砲、ミサイル、核兵器、アーマーと。

最終的にアーマーの存在により各国は終戦となりました。アーマーとは、甲冑や鎧を意味

しておりますがこの時代では人型兵器を現します。」


「もうやめてくれ!」

走る事を止め、手を大きく横に払い、青年は少女の声を遮るように大きな声を発した。


「そこらへんは知っている。結局、軍事目的として造ったアーマーが

医療目的の延命治療として用いられてって話だろ?

俺が言いたいのは、何故俺の両親が。。」

青年は、肩を僅かに震わせ言葉を止めた。その後を言葉にしたくなかったから。


瞳の中で羅列された数字を瞬かせながら、少女は再度口を開いた。

「Answer,ルキの両親がアーマーの近距離設定範囲100m内に進入、それに伴い攻撃目標と

され殺害されました。」


「お前に少し感情とかは無いのかよ!お前の時は問題無かったじゃないか!」

青年ルキは。拳を握りしめ、目には殺意すら見え隠れする。


「Answer,1 感情についてはアーマーにはございません。

 Answer,2 先程のアーマーと私のTypeが違う為となります。

正確には、先程のタイプはTypeCであり近距離設定範囲消去プログラムがデフォルトとして

プログラミングされている為です。私はTypeKなので近距離設定範囲消去プログラムが

プログラミングされていなかった為です。

 状況整理の為に、先程の映像を出力致しますか?」


「映像は必要ない!」


くそっ、自分の両親の殺害映像なんて見たいわけないだろうが。

こいつは運よく手に入ったアーマーって事か。


「Answer,承知致しました。」


「とりあえず、家に帰るぞ。」


ルキは、沈んだ気持ちを引きずりながら、家路についた。

家といっても部屋があるわけでも扉があるわけでも無い。

昔使われていたであろう崩れかけた地下鉄のホームだ。

変わっているのはホームに置いてある機械が多い事と

4つの黒く太い柱が四角形の形で点在している事ぐらいである。

ルキはその柱で作られた四角形内をエルと呼んでいる。


幸せというには程遠く苦悩の生活だったにも関わらず、

ルキの目からは、過去の思い出達が形を変え外に溢れるように

流れだしていた。


エル内に入ったルキは、被っていた濡れたマスクをゆっくりと外し

頬を拭いながら、少女に声をかけた。

「そういえばお前に名前ってなかったよな。何て呼べばいい?」


「Answer,生体反応が私を含め2である為、三人称が必要ない状況と

推測、名前は必要ないと思われます。」


その返答と共に沈黙が起きた。

が、すぐにルキは再度少女に声をかける。


「他の生命体に出会ったら必要となるだろ?そういった状況もあるから、

名前が欲しいんだよ。」


「Answer,記憶デバイスから自身の名前をローディングした結果、レア・アーバインと

なっております。」


「じゃあ、これからレアって呼ぶ事にする。それでいいかな?レア。」


「Answer,了解致しました。」


再度沈黙が起きる。

ルキは、レアに再度声をかける。


「何か楽しい会話をしてくれ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「お父さん、お母さん。。。くそっ!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


レアは何も返答をしない。


ルキは、発狂した。目は悲しみをあらわし、口は笑いながら悲鳴をあげた。

悲鳴という心の叫びは、誰にも届かなかった。

だが、ルキは叫び続けた。声が枯れるまで。涙が無くなるまで。

くずおれるようにして膝をつき、何度も拳を地面に打ち付けて。


この行動は、声を出さないと自我を保てないとルキ自身がわかっているからか、

それとも生物としての防衛本能なのだろうか。。


されど、レアは何も動じない。何故ならアーマーは質問に対して答えを

導く為か、警告を促す為にしか声を発声させないからだ。


ルキの悲鳴が止まる。固く握り締めた拳をほどくと、ゆっくりと何かを探すように視線を彷徨わせる。

やがて一点に目を留めるとルキは安堵で目を細め、微笑みながら語りかけた。


「その通りだね。父さん。」

「うんうん。母さんのやり方で失敗した事ないしね。」


ルキは言葉を紡ぐ。いつものように。視線の先にあるのは物言わぬ設置された機材だけであった。


「大丈夫、俺だってもう子供じゃないんだから。できるよ。」

「だね。レアにインストールすればいいんだよね。」

「でも、いきなり複数は危ないよね。」

「じゃあ、最初は俺と同じ悲しみを与えるのはどうかな。」


そこで、言葉が止まりルキはレアに近づいていく。

ゆっくりと。。

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