戦え!クソコラ画像倫理委員会!
何も考えずにお読みください。
まともに読んだら頭痛くなります。
「クソコラ画像倫理委員会」と、達筆なる太筆で書かれた半紙が、壁の上側に飾られている。少し視線を下ろすと、並べられた机の前に、二人の学生が座っている。
四角い眼鏡フレーズを光らせる七三分けの男が一人。その隣には黒い三つ編みを結んだ、真顔の女が一人。二人ともピチッと校則に準じた制服の着こなしであり、一目してザ・真面目であることが見て取れる。
さらに、壁沿いには三人のこれまた「僕は真面目です」と名乗るよりも明らかな風貌の男子がサイズ大・中・小と並び、教室に入るなり呆然としている彼を凝視しているのだった。三者三葉の眼鏡が白い蛍光灯に反射してキランと光る。
「…………え、なにココ」
重々しい空気の中、突然呼び出された彼は、「…………コラ画像?」と狼狽え、後退りする。机で肘をつき、両手を組んでいた男が「いいからまずは入りなさい」と無駄に良い声で言った。
教室の中央には、机で真顔のままでいる男女と向かい合わせになるようにパイプ椅子が一つ置かれてある。彼は恐る恐るそこに座った。
「…………誰が座っていいと言いましたか」
女が口を開いた。
しーん、と静寂のあと。
彼は「何!? 面接なのこれ!?」と思わず驚いて立ち上がった。
「ったく、これだからゆとりは。罰として貴方の家のドライヤーが弱風しか使えないようにしますよ」
呆れたような男に、
「ゆとりなのはテメーも一緒だろォが、おおん? あとなんだその地味な罰は!」
苛立ってつっかかれば、
渋々「どうぞ座りなさい」と男に言われる。苛立ったままパイプ椅子に腰掛けた。
「何の用だ、なんだここは」
貧乏ゆすりが我慢できない彼は、明らかにイライラして言った。
七三分け眼鏡君が、銀色フレームを上に持ち上げてそれに答える。
「田宮さま、貴方はクソコラ画像量産罪、並びに倫理的に違反している可能性があることが指摘されています」
「は?」
田宮は片眉を上げた。クソコラ画像? 倫理? 何の話だ、というか。
正直どの話だ。
「すまん、どの話だ」
「具体的には全部ですね」
「…………」
目が泳いだのを自覚して、田宮は「ゴホン」と咳払いした。三つ編みの女は、どこからかノートパソコンを取り出す。すると壁で見守っていた男たちが、無言で動き出した。まず小サイズ真面目メガネ君は簡易スクリーンを向かい側の壁に設置。中サイズ品行方正君はパソコンと機材を繋ぎ。最後に大サイズ屈強眼鏡男はプロジェクターの準備を完了させた。
嫌な予感がした。思ったとおりだった。
何とそこには、田宮が友人と悪ふざけして作ったコラ画像の数々が映りだしたのだ!
「ぎゃああああ! や、やめろよ!!」
急いでプロジェクターを取り上げようとするが、身長2mのメガネに取り上げられては成すすべがない。やけに一人デカイのがいると思ったら、こういった用途のメガネであったらしい。巨体メガネはプロジェクターを取り上げつつも、必ず投影する光がスクリーンに向くように工夫することを怠らないので、要するに映りっぱなしである。
「これはひどいですね。教頭先生のボディが、はち切れんばかりの筋骨で膨れ上がり、それをこれでもかってほど魅せんとする黒テカリのボディービルダーになっております」
「安易にもほどがありますね」
「見ろ、己の顔でコラ画像まで作ってある。狂人の発想だ」
「それは友達が作ったんだよ!」
「何で貴方、バッタの顔になってるんですか」
「友達が頭おかしいんだよ!」
「梅宮辰夫の顔を貼り付けときゃ良いって話じゃないでしょう」
「なんでだよくっそ面白いだろ!」
「なんで貴方、爆乳メイドになってるんですか」
「メイドが好きなんだよ!」
田宮は涙声で叫ぶが、真顔の男女は淡々と批評を続けていく。
「見てください。教頭先生〜ボディービルダーバージョン〜が映画のポスター風になっていますよ。タイトルは
『塔の上のパブロンツェル』
髪の毛が無い教頭先生を、あえて髪の毛の長いラプンツェルと合体させることで「こいつ誰だよ」感を引き出そうという努力が垣間見えます。何故ボディービルのコラ画像を流用したのかは謎ですが。そしてこのパブロンという、教頭先生のあだ名の一つ。常に『えー、ごほん』と咳払いをしてからでないと、数学の授業が始まらないと評判の先生に田宮氏が『パブロンでも飲んどけ』といったのが、何故かウケにウケたのがきっかけで広まったあだ名ですね。お見事です。全く面白くないですけどね」
息継ぎすることなく言い切った三つ編みに、既にプロジェクターを取り上げることを諦めた田宮は「ハイ、ソウデス」と小さく呟いた。
「しかし、貴方は教頭先生のことが本当は大好きなのでは」
そして、七三分けに突然ぶっこまれた言葉に田宮は「はあ!?」と大きな声を出す。
「ここ数日、田宮様のデータを取りましたが『やっぱりパブロンの授業が一番分かりやすいな』『俺、受験受かったら一番にパブロンに報告するわ』などという言質が取れております」
「ヤメテ……ホントニヤメテ…………」
「田宮様はツンデレなのですか」
「違うんだよ……やめてください…………」
では何故。と、聞かれて田宮は言葉に詰まった。
「……好きだからつい、いじっちゃうのかもしれん」
「見かけによらずジジ専ですか」
「ちがう! 俺にそっちの趣味はない!」
ただ、ちょっとした遊び心だっただけで、別に悪意があったわけではないのだ。七三分けのメガネが光る。
光ってはいるのだが
それ……何???
レンズが光っていく。まるで目からビームのような照射攻撃に「なに、いきなり何!?」と田宮は驚いた。
「失礼。私はたまに目からビームが出るのです。以後お気をつけください」
「何者なんだよお前たちは」
「しがない文芸部員よ」
嘘つけこの野郎。どこの世界に目からビームを放つ文芸部員がいるのだ。
「さて、悪意があったわけではないにしろ、密告があった以上我々は見過ごすわけには行かない。そして、こちらで審議した結果、悪質なコラ画像であるという認定をせざるを得ませんでした」
「はあ!?」
掴みかかろうとしたが、この男が次は何をしてくるか分かったものではないので、思わず立ち上がったのはいいが、静かにパイプ椅子に腰を落とすしかできない。ビームで頭を焼かれては、さすがの田宮も困るからだ。
「確かに悪質だったけどさ。俺の友達も作ってんだけど」
「田宮様。交通違反のネズミ取りは、全ての違反者を取り締まるわけではないのですよ」
「つまり見せしめか!」
「人聞きがわるい。我々は倫理に法ったコラ画像作りを推進しているのみです」
男がパソコンのマウスを動かす。教頭先生の写真をスクリーンに映した。
「まず、貴方の悪質な点は、切り抜きが雑なことですね」
「…………え? ちょ、ちょっと待って?」
確か、悪質なコラ画像を制作した罪を問うていたはずの男が。マウスを器用に操って、教頭先生の顔だけを切り抜いていく。
「え、なにこの時間」
「教頭先生のことを愛しているのであれば、丁寧に切り取るべきだと言っているのです」
男の目は真剣である。唇を固く結び、一心不乱、かつ繊細に顔のみを切り取っていく。田宮は思わず、拳を握り、スクリーンを凝視していた。息がいつの間にか止まるほど見守っていたのだ。
「…………よし、切り取れました」
男の声で現実に戻る。黒い画面の中央に、肌の小皺の凹凸や髪の毛の一本一本……というのはかなり言い過ぎだが、それでも丁寧に切り取られた教頭先生の顔が浮かび上がっていた。
「すげぇ、あんた何者だよ……」
「未来から来た、しがないフットサル部員です」
男は教頭先生の顔をポインタで掴み、縦横無尽にぐるぐる回しながら「さあ、貴方の望むパブロン先生の姿を、口にしなさい」と、優しく微笑んだ。
「なに、遠慮はいりません。本当の愛のこもったコラ画像であれば、倫理を超えるのです」
ーー画面上でパブロンの顔が高速移動しているーー
「倫理を超える……?」
ーー画面上でパブロンの顔が影分身を作り始めるーー
「宇宙に届くのです、コラ画像の愛は」
ーー画面上でパブロンの顔が3つに増えたかと思えば、それは残像であるーー
「だって、大好きだからコラ画像を作るんでしょう」
「ーーほんとに言ってるのか……?」
「いつだって、人は本気で生きています」
三つ編みも優しく微笑んだ。ならば、愛さえあれば、先生をどんな姿にしたっていいのならば。田宮は震える声で、
「SM女王様の姿にしたいですッ…………!!」
「却下。倫理委員より処罰を言い渡します。これより、『消しゴムの角のところ全部丸くする刑』『目覚まし時計の音声をダミ声の「お兄ぢゃん起ぎでなのじゃ」に変更する刑』『3日に1度は自転車のサドルがブロッコリー』『コンタクトが目からなかなか剥がれない刑』『使おうとしたシャーペンの芯全部折れてる刑』『ネトゲでネカマに騙される刑』『上履きにガムがすっげえつく刑』等に」
「処します」
「コラ画像や言ワンと、オマエガ、ボンテージ、着ればエエネンッ!!」
「ぶへっ!?」
荒唐無稽な私刑を言い渡され、なおかつ突然時代錯誤な紙ハリセンで2mの眼鏡君にぶったたかれた田宮は、そのまま連れて行かれたのであった。
「え、っ、ちょっと待ってなんで君カタコトって、ちょっ、おい、どこからこのボンテージ出してきた!」
「イイカラ、ハヤーク、キガエナサーイ!」
廊下の端で2mの眼鏡に馬乗りにされ、学ランを剥がされる田宮は、視界の隅の方で
「田宮君……先生は悲しいよ……」
と、顔を青くする教頭先生を捉えたのであった。
完。
よいこのみんなは、人の写真でコラ画像作っちゃいけないよ!
お読み下さりありがとうございました☆