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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
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第8話 次の犠牲者のフラグを立てた人間は誰だ

お読み頂きましてありがとうございます。

「もう誰よ。鞄の中を引っかきまわしたやつは。」


 真神家に到着し、個室が与えられているという志保さんの部屋にお邪魔するとベッドの上に鞄の中身が散乱していた。


「犬噛家とは関係無さそうですよね。遺言書が開示された後なら解らないことは無いけど、恨みがあった『観奇谷鬼好』さんも犬噛家に居てアリバイがありそうだ。」


 そうすると他の村人か一星テレビのスタッフ。


「何よ。その目は。」


「普通はここで定番の『恨んでいそうな人は』と聞くところだけど『西九条れいな』相手じゃ聞くのもバカらしい。」


「さっきまであんなに優しかったのに、もうそれなの?」


「弱ってない志保さんに優しくする義務はありませんからね。」


 それが『僕たちの暗黙の了解でしょう?』と視線を送ってみる。


 僕たちが協力し合うことがあるとするならば、山田社長が絡んだときだけ普段は反目し合っていたほうが何かと話は進めやすい。


「もう嫌な人ね。」


 僕の視線の意味が解ったのか思った通りの回答が返ってくる。


「それで何か無くなっているものとかありませんか? ちょっと待ってください。僕も一緒に調べます。毒とかが仕込まれていたら拙いですから。」


 以前も僕が『鑑定』スキルを使っていたら、未然に防げたかも知れなかったことがあったのだ。それ以来、万全を期することを心に決めている。


 開封済みのペットボトルのお茶。口紅などの化粧品のたぐいが危ない。他にも下着類も散乱している。特に重要なものは無さそうだ。


「このページの×マークは志保さんが付けたんですか?」


 台本に付けられた書き込みは見られたがそれは志保さんの文字みたいだったが、×マークが大きく付けられているページがあったのだ。


「ううん。知らない。どうしてっ。犬噛家だけじゃないの!」


 心当たりが有りすぎてわからないに違いない。本人にしてみれば殺されるようなことは無いつもりなのだろうが、僕が知っているだけでも『観奇谷鬼好』の他に名前が数名挙がっている。


 嫌がらせ程度ならば星の数ほど居るに違いない。


「そうみたいですね。これはさっさと逃げ出したほうが得策じゃないですか。」


 『嵐の山荘』的事件は逃げることができるうちにさっさと逃げるのが一番なのだが。


「嫌よ。逃げるなんてありえないわ。」


 やっぱりね。そう言うと思った。


「とにかくこの件は内緒で。志保さんのことだからギャーギャー騒ぐはずも無いのだろうけど。いいですよね瑤子さん。」


 志保さんへの恨みばかりとは限らない。一星テレビへの恨みかもしれないし、スタッフ個人への恨みかもしれないのだ。騒ぎ立てることを予想して行動しているふしもある。そんな相手の思い通りに行動してやることもない。


「うん任せるわ。」


     ☆


 大広間ではスタッフからの事情聴取が終わり、犬噛市子さんと酒井プロデューサーとの話し合いが行われていた。


 周囲には数名の村の長老と思われる方々と通訳兼調整役の真神アシスタントディレクターと羽根ディレクターが同席していた。


「こうして事前にお伺いして撮影許可の了解も頂いていたわけですし、何が問題なんでしょうか?」


 あくまでスタッフは撮影を続行するつもりのようだ。既に犠牲者も出ているんだし、引き上げればいいのに。『嵐の山荘』的展開をみせるならば次々と死者がでるかも知れないのだ。


 数日も経てば吊り橋も復旧するだろうし、そうでなくても僕たちが通ってきた道を下ればすぐにでも村を出て行ける。


「ですから、家の内部まで撮影許可は出しておりませんと申し上げております。どうぞ、好きなように外観を撮影してください。」


 僕が入っていくと市子さんが助けを求めるようにチラリとこちらを見る。僕が壊した仏壇と怨霊が渦巻いている天井が映ると困るのだろう。


「酒井さん。少し話をお伺いしても、よろしいでしょうか?」


「ああ。何かな。」


「台本を見て思ったんですが道路や寺、村役場といった場所も撮影されるようですが、警察への道路使用許可、村役場への撮影許可は頂いている認識でお間違いは無いでしょうか?」


「おいおい。君はどちらの味方なんだい。こんな田舎のロケでいちいち警察に届けを出すはずが無いだろう。」


 一星テレビのこういった態度がSNSで拡散して視聴率の悪化に繋がっているという噂があるのだ。しかも警察の許可が出ないようなところではゲリラ撮影も辞さないという。


「東京なら暴力団事務所にも挨拶に伺うと聞いてますが。」


 しかもその中には反社会的集団に繋がっているという書き込みもあり、良い噂を聞かないのだ。


「そりゃあ、そうだろう。長いものには巻かれろだよ。そんなこともわからないのか?」


「とにかく犬噛家の外観で満足して帰るか。村全体の撮影許可が下りなくて何も撮影できずに帰るかはお任せします。」


「君。私たちを脅迫する気かね。」


 なんでこの人たちはこんなに偉そうなんだろう。初めはペコペコと頭を下げておいて、いざ許可が出ると無理を押し通そうとする。


「いいえ。こういう手段を使えば追い返すことができることは市子さんも先刻承知だと聞いています。せっかく犬噛家の方々が譲って下さっているのに何もできずに帰りたくないでしょ。それとも犬噛家の方々から直接言い渡されたいですか?」


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