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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
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第7話 メス犬が増えたそうです

お読み頂きましてありがとうございます。

 志保さんはまだ芝居を続ける気のようで横から抱きついているし、タマはタマで真似をして抱きついてくるから歩きにくい。


「何よ。メス犬が2匹に増えているじゃない。」


 村は一本道で奥が犬噛家で真神家が吊り橋側で吊り橋を渡れば、村の駐車場があり、国道へ繋がっている。真神家から瑤子さんが走ってきて合流する。


 タマは確かにメス犬だけどね。


「そんなことを言っている場合かよ。何があったんだ。何か事件が発生したのか?」


 真神家で待っているはずの瑤子さんが走ってきたのだ。


「私はその女にシンを取られると思うと心配で心配で。」


 なんだそりゃ。紛らわしいな。連続殺人が発生したのかと思ったじゃないか。


 まあこういう人だよな。瑤子さんって。本当に警視庁の将来が心配だよ。


 僕は瑤子さんの肩を抱き寄せて落ち着かせる。


「タマは犬らしく僕の斜め前方を警戒しながら歩くこと。」


 基本的に主従関係が出来ている場合、逆割らず行動してくれる。問題は志保さんだ。まだ呪いが怖いのか、単なる嫌がらせなのか。ガッチリと離してくれない。腕に当たる幸せな感触に思わず神経を集中してしまった。こうやるとまるで掌で触っているようだ。ヤバいヤバい。


「ダメじゃない。こんな小さな女の子を犬扱いしちゃ。」


 それは瑤子さんだろ。瑤子さんがメス犬扱いをしたんだろ。コロッと忘れているらしい。ったく。


「小さな女の子って何処に居るんだ?」


 タマは察し良く変身を解いてくれる。こうなれば着ていた服を『箱』スキルに回収するだけだ。


 僕はタマを抱き上げながら服を回収し、首輪とリードを取りだして付ける。


「ほら、犬噛家で子犬を貰って来たんだ。可愛いだろ。」


「ワンワン。ワン。ワンワン。」


(可愛い。私。可愛い。)


 僕がタマを瑤子さんに抱かせると生まれたての赤ちゃん犬の感触に顔を埋めている。


 タマ曰くあの骨壷の中は時間の経過が極端に遅いらしく、犬噛家の当主が代わる度に開けられて餌を与え、頭を撫でることで主従関係の更新が行なわれるという。


 当主が亡くなった交代の時期に僕たちは偶然出会い、主従契約を結んでしまったらしい。問題はタマがどれだけ長生きするかだ。猫又のように長生きをするなら、僕が死ぬときにタマを殺してでも天国へ連れて行くつもりだ。


「貴女、警察官でしょ。なんで素直に受け入れているのよ。実際に呪いを受けた私でも半信半疑なのに。」


 志保さんは怖かったらしい。僕は不思議なことに慣れたが目の前で摩訶不思議な現象を目撃したばかりなのだ。自我が崩壊してもおかしくは無い状況だ。


「止めて! その女を抱き締めないで。」


 僕は志保さんが壊れないように強く抱き締める。本当は旦那さんの和重さんが適任なのだが代替品で我慢してもらおう。


 志保さんは本気なのか瑤子さんへの嫌がらせなのか僕の背中に手を回して胸に顔を埋めている。


「瑤子。彼女は殺されそうになったばかりなんだ。ちょっと静かにしていて。」


「もうこんなときばっかり呼び捨てにするんだから。『西九条』さん。貸してあげる。でもそれ以上は許さないからね。」


 志保さんの心が落ち着き自ら身体を離すまで抱き続けた。全身で志保さんの感触を少しだけ楽しんだが反応しそうになってしまったので、タマを抱いた瑤子さんに真神家の様子を聞いて誤魔化した。


 一星テレビのスタッフは一様に落ち着いていたらしい。機材は既に真神家に運び込まれた後であり、ロープに切り目が入っていたことで殺人事件の可能性があると伝えても動揺することなく撮影を続けるということだった。


 被害者が一星テレビの下請けが頼んだ直接関係無いバス会社の人間だったことも大きいのだろう。


「警察側の人間としては現場の保存が出来て、関係者が揃って村に留まっていてくれるいまの状況のほうが仕事がやりやすくていいわ。」


「でも吊り橋が現場じゃ、目撃者も居ないだろうし大変だね。お仕事、頑張ってね。」


「何、他人事のように言っているのよシン。山田社長に言って吊り橋が復旧する予定の2日後まで借りているわよ。何よ。ドッグカフェも1日余分に休み取ってあると言うじゃないの。私に隠れて何処の女と出掛けるつもりだったのよ。」


「両親の墓参りに行くつもりだったんだ。瑤子さんも一緒に来るか?」


 僕の両親は夏の甲子園大会の真っ只中に事故で亡くなっている。当時は酷く動揺してしまい野球にもそれが現われ恨みもしたものだ。その後、母にソックリな尚子さんが現われ一緒に暮らすことで随分慰められた。


 その妹の瑤子さんと墓前に現われたら何て思うだろうか。パトロネスと思われるのがオチだったりして。


「うん。事件を長野県警に引き渡したらね。だから、さっさと解決してね。名探偵さん。」


 僕は事務所も開いていないのだが、刑事局長(よーちゃん)に書類を書かされて探偵業の申請をさせられてしまった。何処まで信用していいのか解らないが全国の警察署の刑事課に便宜を図るように通達まで出されているらしい。

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