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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
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第5話 犬神憑きの呪いを解除する方法

お読み頂きましてありがとうございます。

「ああそうか! 何処かで見た顔だと思ったら、『神たる西九条さま』なんて呼び方をするキモいストーカー男の顔だわ。最近、見ないと思ったら死んでいたのね。ああっ。スッとした。」


 仏壇の前に掲げてあった男性の写真を指を差して志保さんが叫ぶ。


 志保さん勘弁してくれよ。もうちょっと言い方っつうもんがあるだろうが。


「「「犬噛巳の財産を奪うヤツは呪われろ!」」」


 目の前の長女たち3人が立ち上がると自分の首筋から頬に掛けて一文字に切り上げる仕草をする。


 仏壇の下の方に感じていた犬たちの負の感情の臭いが同じ濃度で家中に広がっていく。


 これはヤバいかも。幾ら『勇者』だからと言っても怨霊と戦うのは勘弁してほしい。


「那須くん。何を持っているの?」


「パン切り庖丁。」


 僕は『箱』スキルから伝説の聖剣を渚佑子さんが錬金術で変化させたパン切り庖丁を取り出した。ジッとみていたら、いきなり手から生えてきたように見えたかもしれないが取り繕う暇は無い。


 他にも魔を祓う可能性の高いミスリルとオリハルコンが重ね合わされたレイピアもあるのだが、日本国内では銃刀法違反で罪に問われかねないので出さないでおく。


「それをどうするの? この状況下でパンを切って食べるとか言うつもりじゃ無いでしょうね。」


 志保さんも負の感情を肌で感じているのか震えながら聞いてくる。


「後で切ってあげるよ。」


 『箱』スキルの中には出来立てのホームベーカリーで作ったパンも入れてある。


 僕は志保さんを庇いながら、何も無い空間をパン切り庖丁で切り裂いていく。


『ぎゃうん。きゃん。ぎゃん。きゃんきゃん。きゃう~ん。』


 一応効果があるみたいで切り裂いた空間の負の感情に臭いはしなくなっているが犬たちの叫び声が耳について離れない。もう止めて帰りたい。


 一撃入れては耳を塞ぎ、一撃入れては耳を塞ぐ。まあ傍から見れば滑稽なんだろうな。良くこんな悲痛な叫び声を聞きながら、異世界で『勇者』は戦えるよ。僕には無理だ。さっさと帰ってきて正解だった。


 そして仏壇の前まで来るとど真ん中をV字に切り裂くと仏壇が破壊され下から大きな骨壺のようなものが現れた。


 その蓋を開けてみると何かが噴出していく。鼻が曲がりそうなくらい犬の負の感情の臭いが飛び出してくる。神経を集中していなくてもこの部屋の天井がどんより曇って見える。


 こんなものと戦わなくてはいけないのか?


「ワン。ワンワンワン。ワンワワンワン。くぅーん。」


(こんにちは。新しいご主人様ですか? もうお腹がペコペコだよ。)


 ビーグルの赤ちゃんが骨壷の底に居た。


「那須くん。何をあげているのよ。その子が犬神じゃないの?」


 思わずHPポーション入りのクッキーをあげていた。殆ど条件反射だ。弱った犬を見るとついついこれをあげてしまうのだ。敵に塩を贈るるどころかポーションを贈ってどうする。


「那須くん。何で外に出しているのよ。その子が犬神なんでしょ。」


 思わず骨壷の底から取り出して抱き締めてあげる。殆ど条件反射だ。可愛い犬を見るとついつい抱き締めてしまうのだ。敵を攻撃するどころか愛玩してどうする。


「ワン。ワンワンワワン。ワン。」


(ご主人さまに沢山の友達の匂いがする。皆幸せそうな匂い。)


 ドッグカフェには沢山の犬たちと触れ合うからな。ときには押し倒してマーキングして親愛の情を示す犬までいるから。


「ねえ君、名前は何ていうのかな?」


「ワン。ワン。」


(名前? 無いよ。誰も付けてくれなかったの。)


 少し考えてすぐに思い付いた名前を付けてあげる。


「じゃあ、タマでいいかな。タマタマ。ターマ。」


「ワン。」


(嬉しい。)


「何でタマなのよ。タマと言えば猫じゃないの。」


「うちの犬は代々タマと決まっているんだよ。」


 コウサクくんは勝手に名付けられてしまったから、今度は絶対にタマにするつもりだったんだ。


「那須くん。まさかこの子を飼う気なの? 何度も言うけど犬神なんでしょ。」


「うん実体を持っているみたいだし、捨てていくなんてできないから。餌をあげたら責任を持って飼い主を探すのが拾った人間の義務だ。」


「そういう問題なの?」


 志保さんが呆れた表情で僕を見ている。非常識なのは解っている。でも条件反射なのだ。こんな可愛い子犬を殺すくらいなら飼うに決まっている。


「なあタマ。この怨霊たちって制御できないの?」


 僕は思い切ってタマに聞いてみる。パン切り庖丁で戦えばいいのは解っているができればあの悲痛な声はもう聞きたくないのが本音だ。


「ワン。ワンワンワンワン。くぅーん。」


(私を棲家に戻して蓋を閉めれば元に戻るよ。)


 そんなことが僕にできるはずがない。


「他に方法はないのか?」


「ワン。ワンワン。くぅーん。」


(私の棲家を壊せば・・・多分ね。)


 本人にもわからないらしい。仕方が無いか。制御不能になって向ってきたら敵だ敵なんだと言い聞かせて戦うことにしよう。


 僕は天井を見上げながら骨壷に手を掛けパン切り庖丁で真っ二つにした。


 そうするとどんよりとした天井がキラキラと輝いたと思ったら消えていった。成仏したみたいだ。


「あれっ。まだ残っている。」


 どんよりとした天井は無くなったが部屋には元の負の感情の臭いが満ちていた。


「ワン。ワンワンワン。ワン。ワン。」


(呪いが発動中だからね。)


 これどうしたらいいんだ?

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