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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
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第4話 悲しみに満ちた犬神憑きの屋敷

お読み頂きましてありがとうございます。

「泣いているの? 那須くん。」


 屋敷の玄関に立った途端、悲しみの感情に襲われて一筋の涙が零れる。


 犬が悲しんでいる臭いがする。苦しんでいる臭いがする。憎しみに満ちた臭いがする。そこには喜びは全く無い。犬たちの負の感情の臭いがしたのだ。


 蠱毒により死んでいった犬たちの怨念が家に染み付いているのかもしれないな。死んでも天国に登れず転生も適わず、こんなところに縛り付けられているなんて可哀想だ。


「ちょっと待って志保さん。なんで抱きついているの?」


 思わず驚いて本名で呼んでしまう。しかもうっすらとフェロモンまで漂わせている。やばいって、欲望に身体が反応してしまいそうになるのを必死に押し殺す。彼女に反応してしまったことが知られたら一生言われ続けるに違いない。


「何故か急に母性本能に襲われたの。やっぱり君って『熟女キラー』ね。」


 あまり言われたくないあだ名で呼ばれてしまった。このあだ名を名付けたのは志正だ。志正と他の同僚たちが俺が住んでいた屋敷に来たときに4人の女性と暮らしているのを見て名付けたのだ。それ以来、親しい友人たちが裏でそう呼んでいるらしい。


「30歳を超えれば熟女ですもんね。」


 滅多に女性の年齢を言及しないのだけど思わず言ってしまった。


「嫌なことを言うね那須くん。」


 もうこの人も30歳、結婚もしたんだからいい加減落ち着いてもいいのに。


 それでも態度だけは年上目線なんだよな。いつも君付けだ。たった3歳しか違わないってのに。


 村長の案内に従って、奥へ奥へと歩いていくとその臭いはさらに強くなっていく。


 そこは20畳はあろうかと思う部屋の中央に漆黒の大きな仏壇が置いてあり、その右側に人々が並んでおり、左側には天秤の金ピカなボタンを着けた背広を着た男性がひとり座っていた。


「ねえねえ。あれ人間だよね。」


 志保さんが耳元で囁いてくる。


 その中で異彩を放っていたのは、被りモノを付けた1人の男性だった。


 頭からスッポリと口元まで茶色い毛に覆われており、目の部分だけくり抜かれ、口元には牙が存在する。そして村役場にあった面のように頬にメの字に傷痕が付いていた。


「多分、狼男のコスプレの道具みたいです。でも何で僕の腰に手を回しているんですか。」


 僕も彼女の耳元で囁き返す。こんなところを瑤子さんに見られたら何をいわれるか。多分バカップルみたいなんだろうな。


「だって世間では私が男性と歩いていれば恋人か愛人だと言われているのよ。那須くんに男好きという変なイメージが付いたら困るでしょ。」


 そんなこと言われたら離せないじゃないか。男好きは無くとも女嫌いと思われたら困る。


 ここまできたら十中八九標的は彼女に間違いは無い。それに渚佑子さんに指令を受けているのだ全力で守り抜いてみせなければいけない。


 もしかすると第1の殺人は彼女に対する警告なのかもしれないな。


「素直に私を守ってとか言えないんですか。ちょ、顔・顔。愛人役でしょ。」


 一瞬心底嫌そうな顔をされてしまった。誰が無表情だって。


「では始めさせて頂きます。半年前に亡くなられた当主犬噛千葉琉(いぬかみちはる)氏の遺言により相続人として『西九条れいな』さまを指名なされましたのでここに来て頂きました。」


 僕たちがこの家の人間と思われる方々の前に座ると話が始まった。もう既に突っ込みどころがあるが後にしておこう。


「初めてお目にかかります『西九条れいな』と申します。まずはご焼香をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 胸元がパックリと開いた服を着ているとは思えないほど、キレイに正座をして頭を下げてみせる。もう既に彼女の中では芝居が始まっているらしい。きっとイメージは和装を着こなした女性だ。


 焼香については僕が言い出したことだ。『祟り』とか言う村人が居るのであれば、この村の本家である犬噛家で何らかの儀式を行なえば、降りかからないだろうし、今後行動しやすいのでは無いかと思ったからだ。


「長女の市子(いちこ)と申します。隣におりますのが次女の丹奈(にな)と3女の魅美(みみ)でございます。」


 3人とも中々の美人揃いだ。年齢は54歳、52歳、50歳と瑤子さんのほうが少し若いくらいだ。こんな表現で合っているのか解らないが男好きする顔立ちで志保さんに引けを取らない。


 被りものをしている男性は市子さんの息子さんでアトピー性皮膚炎で顔を見られたく無いらしい。蒸れて悪化しそうだけど。丹奈さんと魅美さんにも息子さんが1人ずつ。そしてそれぞれの旦那さんから挨拶を受けた。


「友人の那須新太郎と申します。」


 志保さんがすっと立ち上がり仏壇の前に行ったところで僕も同じように頭を下げてみせる。


「あっ。ナスシンだ!」


 魅美さんの隣に居た息子さんが声をあげる。


「これっ。千太郎(せんたろう)さん。」


 母親の魅美さんが叱りつける。


 僕のプロ野球選手時代の愛称を知っていてくれるとは話がはやい。


「だって元プロ野球選手だよ。滅多に見れないじゃんよ。」


「今はドッグカフェを経営しております。」


 僕がそう言うと周囲から溜息ともなんともつかない声が聞こえてくる。


「へえ凄いね。引退後のことをしっかり考えていたんだ。」


     ☆


「では遺言書の開封を続けさせて頂きます。」


 僕たちが焼香を済ませて元の位置に戻ってくると金ピカのバッヂをつけた男性が再び話し始める。


「犬噛家の全財産のうち、約半分の現金5億円を『神たる西九条さま』に渡し、残りを妻の菊、長女市子、次女丹奈、3女魅美に均等に分けるものとする。但し、犬噛家のものが『神たる西九条さま』と結婚を成し遂げた場合は残りのうち半分をその者に与えるものとする。」


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