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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
4/32

第3話 顔が映らず足だけが登場する俳優はいらない

お読み頂きましてありがとうございます。


中田雅美。芸名も同じ。

拙作「私の彼氏は超肉食系」で登場した脇役。

山田ホールディングスシリーズでは山田トム、大賢渚佑子に次いで登場回数が多い彼だが

短編「淫行疑惑 ~アイドルの奥様は16歳~」の主人公も務めた。

今回は名前だけ(笑)

「やあやあ。お待たせしてしまい申し訳ない。『西九条れいな』さん。私、村長の狗崎圭吾(いさきけいご)です。」


 『だに』だの『かや』だの凄い方言だ。耳から入ってくる発音と同時に『翻訳』スキルを使わないと意味がまったく分からないな。


 さすがの大女優もこれには困ったようで逐一こっちが通訳してやる。


 村長さんはベラベラと聞いてもいないのに村の成り立ちを話してくれる。麓の温泉地で聞いた内容と似たりよったりだ。通訳しなきゃいけないこっちの身にもなってくれ。


「そちらさんたちはどなたですかな?」


 村長さんは、ようやくこちらに気付いたのか胡乱げな視線を送ってくる。


「警視庁捜査1課長の野際瑤子と申します。」


 瑤子さんが代表して警察手帳を取り出して見せて、殺人事件の捜査できたことを告げる。


「おうおう。聞いとりますよ。なんぞ忌み月だというてるのに押しかけてきた輩が死んだとか。大変ですなあ。おたくさんたちも、まあ好きにやってください。」


 あれっ。この村の駐在さんにさっき話したばかりなのにもう話が共有されている。これくらい東京でも共有されていると楽なのに。小さな村だからこそなんだろうな。


 瑤子さんの後ろでは神谷警部が固太りの身体から汗を掻きながら必死に通訳をしている。長野県の人間でもこのあたりの方言は難しいらしい。


「『西九条』さん。では参りましょうか。犬噛家の方々がお待ちです。」


「ちょっと那須くん。お願い一緒に来て。」


 『西九条』さんが突然僕の腕を掴んだ。良かったこの人はお尻を掴むような人間じゃないらしい。


「ダメよ。シンは私のものなんだから貴女になんか絶対に渡さないんだから。」


 瑤子さんに視線を移すと額に青筋を立てて怒っていた。僕を取られると勘違いしているのか。余程『西九条れいな』が嫌いなのか。反対の腕を掴んで離さない。


「困りますな。貴女一人を連れて来いと言われているのですよ。警察の方を一緒に連れていったのでは私の面目が丸潰れですよ。」


 僕が通訳をするとまるで言葉の通じない異世界に一人で連れてかれるような顔で腕を掴む力が強くなり、首を振っている。彼女の弱りきった姿は珍しい。全く聞き取れないのでは仕方が無いんだろうけど。


「僕は警察官ではありません。彼女の友人の那須新太郎と申します。」


 僕はボケットに手を突っ込み、ドッグカフェオーナーの名刺を取り出して渡した。もちろんポケットに突っ込んだのは偽装で『箱』スキルから取り出している。


 新品同様の名刺が出てきたのは勘弁してもらおう。


「ほう犬を連れて行ける喫茶店ですか。それはそれは立派な仕事をしていなさる。わかりました。特別にお願いしてみましょう。」


 ドッグカフェのオーナーの名刺を出して、立派な仕事と褒めて貰ったのは初めてだ。やはり犬神憑きが存在する家系の方々だからなのだろう。


「瑤子さん。先に真神家に行ってお仕事頑張ってね。」


 僕が軽くキスをしようとするが離してくれない。『西九条』さんに見せ付けるつもりのようだ。


「よーちゃんも頑張ってね。」


 長々と熱の入ったキスをされ、ようやく瑤子さんが離してくれた。なにか縋るような視線を向けてくる刑事局長(よーちゃん)に声をかけていく。


 そんな顔をするなら温泉地(した)で待ってればいいのに。もちろんハグも無しでお願いします。


     ☆


「あいかわらずね。熟女ばかり周囲に侍らして。結婚するつもりは無いの?」


「えっ。瑤子さんの年齢が解るんですか?」


 確かこの人『勇者』じゃなかったはずだよな。『鑑定』スキルで改めて確認してみても、医師井筒志保と出てくる。只の人間だ。全く驚かされるな。


「骨の細り具合とか筋肉の弱り具合、あと血管の浮き出し方という医学的見地から見ると50歳前後に見えるのよ。若い女性は興味無いの?」


 凄い、ズバリ大当りだ。


「中田さんみたいにですか?」


 中田雅美。山田社長の高校時代の後輩でマルチタレントとして有名だが、40歳のときに16歳の女性と結婚したことでも有名だ。今では3人の子供を儲けて幸せな毎日を送っている。僕はロリコンじゃないけど羨ましいかぎりだ。


 目の前の『西九条れいな』とゴシップ記事になっているが、親友だと中田さん本人から聞いたことがある。


「あれは行き過ぎよ。那須くんって、山田ホールディングスの女性たちから夫にしたい男性のトップ3に入っているらしいわよ。だから頑張れば見つかるわよ。」


「恋人じゃなくて夫なんですか?」


 できれば段階を踏んで結婚に持ち込みたいな。


「そうよ。何でこんな表裏(おもてうら)が激しい男性を夫に持ちたいなんて思うかな、絶対結婚したら苦労しそうなのに。」


「表裏って・・・貴女以外に毒を吐いたりしませんよ僕。きっと結婚したら奥さんには優しく接すると思うけどな。」


「何で私には毒を吐く前提なのよ。私だってキズつくのよ。」


 僕に顔を背けて歩いていた彼女がこちらに視線を移してくる。


「うわっ。器用ですね。やっぱり女優さんは泣いてなんぼの世界に生きているんですね。」


 顔を向けた彼女の瞳いっぱいに涙が溜まっていて一瞬ドキッとしたが普通、本当に泣くと体臭が僅かに変わるもんなんだよな。僕の嗅覚は違うと言っていたのだ。


「ちっ。引っ掛からないか。」


 舌打ちしやがった。どっちが表裏が激しいんだか。


「貴女こそ表裏が激しい人間でしょうが。嫌いな人間には徹底的に容赦は無いけど、好きな人間に対しては度を越して献身的になるんだから。」


「そんなことないわよ。渚佑子さんに比べたらまだまだ。」


「そんなことを言っても引っ掛かりませんよ。渚佑子さんは優しい女性です。」


 対象が社長にしか向かないのが問題だけど。


「なんで引っ掛からないのよ。」


「貴女の思考が読み易すぎるからですかね。」


 本当は嫌なんだけど性格が良く似ているんだろうなと思うときがある。但し、向こうは天然でこっちは意図的だという違いはあるが。


「着きましたよ。ここが犬噛家です。」


 村長さんが振り向くと目の前の屋敷を指し示す。意外と小さいかもしれない。僕が住んでいた元三味線の家元の邸宅に比べれば貧相かもしれない。


 倉庫として使われているらしい蔵だけが周囲に点在しており、そこだけは立派に見える。


 その家は沼だか湖だかの前にあった。おそらく遠浅なのだろう湖面がすぐ下に見えている。たぶん、逆立ちしなきゃ溺れ死ぬことは無さそうだ。


 ドロの中に頭を突っ込まれて死んでいる『西九条れいな』の姿を思い浮かべる。これが芝居だとしてもそんな役柄は嫌だな。顔も出てこないで足だけが登場する俳優さん。


「何をニヤニヤと笑っているのよ。気持ち悪いわね。」


 そっと隣を視線を移してみると珍しく口角が上がった彼女の姿があった。どうやら、彼女も同じような想像をしていたらしい。

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