表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/32

番外編 秘密のレシピ

「今日はお休みなのに店で何やってるのよ。」


「あっ瑤子。起きてきたんだ。」


「あん。もうエッチしたあとに抱き合って寝るのが気持ちいいのに。起きたらシンが居ないんだもん。」


 子供が出来ても、瑤子さんはいつもベッタリ引っ付いてくる。こうして僕の休みの日には誰かに子供を預けて2人っきりで過ごすことが多い。


「仕込みだよ。」


 喋りながら、コンロに並んだ鉄板に卵液を投入していく。


「仕込みって、明日のランチのメニューに卵焼きなんてあった?」


「これは別注用だよ。そろそろ、煩い方々が見えるからね。」


「ああ。山田社長のレシピってヤツね。」




















 確か入団した年の開幕3連戦が終った翌日の休みの日にZiphoneグループのCOO。大川賢次さんがやってきた。


「君が那須新太郎か?」


 寮の食堂で料理を作っているとガッチリした体形の男から声をかけられた。始めは僕の知らない球団職員かと思ったが『鑑定』スキルで確認するとCOOであることが判明し思わず緊張する。


「は、はい。」


「ふぅーん。なかなか良い身体つきをしている。」


 彼は僕の傍に近付いてくると身体を触ってくる。高校時代から良く触られるから慣れっこだった筈なのだが、何故か背中を薄ら寒いものが走っていく。


 まるで女性に抱きしめられて、背中に回った手のひらが動いているような感じ方だ。


 そして多分偶然なのだろうがお尻の谷間の線をなぞった後、離れていった。危ない。もうちょっとで声を上げてしまうところだ。


「な、なんでしょうか?」


「別に今年の新人選手を見にきただけだよ。ところで、今何をしているんだい。」


「あのう。球団社長はご存知ですよね。昨日、お宅にお伺いしたときに食べさせて頂いたお手製の卵焼きが美味しかったので再現しようとしているところなんです。」


「ああ。あのアキエちゃんが大好きだというヤツだね。僕も1度頂いたことがあるよ。そうか君は『勇者』だったね。風変わりなスキルなんだ。」


「ご存知だったんですね。折角拾って頂いたのに役立たずで申し訳ありません。」


「などほとトムが褒めるのもわかる気がするな。だがあまり卑下しないほうがいいな。Ziphoneフォルクスが開幕3連勝を勝ち取ったのも君が活躍したからなんだし、それにトムが役立たずをスカウトするはずが無い。」


 喋りながらも卵焼きを焼く手は止めない。レシピは社長宅で出たそのものだが、焼き加減で随分と変わってしまうことも解っているので2回目に焼くときに傍で見させて頂いたのだ。


 おそらくこのくらいで大丈夫なはずだ。


 卵焼き器から皿に移して、スライスしていくといつのまにか1キレCOOに取られてしまった。


「うーん。美味い。ソックリだ。」


「ありがとうございます。」


 食べたことがある人にそう言ってもらえれば完璧だ。


「そうだ。この卵焼きを僕のために作ってくれないかな。ほらトムは忙しい男だから、こんなことで時間を奪ってはいけないんだ。君なら十分に代役が務まる。報酬は君が将来お店を持ったときの融資の条件かな。」


「ここに食べに来られるのですか?」


「1ヶ月に1回くらいは通うかな。でも半年先には高層マンションが完成するから、持ってきてもらえないかな。」


 それくらいなら大丈夫かな。まさか遠征しているときに持って来いなんて言わないだろう。



















 融資条件は無利息無催促で唯一の必要なものは月に1回の『卵焼き』。


 そんなものでいいのかと聞いたところ、球団社長を30分拘束した機会費用のほうが随分高いらしい。


「やあ良く来たね。」


 店を建てても月1回の訪問は変わらない。『箱』スキルには数ヶ月分のストックがあり、いつ呼び出されても出来たての『卵焼き』を持っていけるように準備しているのだ。


「どうかされたんですか?」


 周囲には悲しい香りが漂っている。


「もしかして顔に出ているかね。恋人と別れてね。少し落ち込んでいるだけなんだ。」


 COOがゲイというのは球団社長に近い従業員の中では公然の秘密だ。この部屋でケント王子と居るところを見かけたこともある。当のケント王子に婚約者が現われたのである。


「僕で良かったらお慰めしましょうか。と言ってもできるのは抱き締めるくらいですが。」


「君は嫌じゃないのか?」


「何をいまさら、散々セクハラ紛いのことをしてくれましたよね。」


 COOがゲイだと知らなかったときは気のせいだと思っていたのだが、頻繁にボディタッチされれば誰でも気づく。気づかないのは球団社長くらいだ。


 それも利息のうちと思えば我慢できる範囲内だ。


「うっ。」


「貴方が性転換をしてくれればエッチも可能ですよ。」


 年を取ってからパートナーと別れたゲイが誰からも相手されなくなり、一般男性狙いのため性転換して失敗する例が後が経たない。ゲイのネコとオカマは似ているようで全く違う人種らしく年がら年中女性らしく生きられないらしい。


 でもCOOはゲイのタチだろうからそもそも無理だろう。


「いまさらコミュニティにも戻れないんだよな。本当に性転換すれば抱いてくれるか?」


 あれっ。ネコなのか?


「僕の前で女性らしく頑張れるのであれば。」


「今日は抱き締めてもらうだけで我慢するよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ