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美名子先生の「やさしいヒップホップ」

お読み頂きましてありがとうございます。

「ここの一文を読んで頂けますか。」


 美名子さんがインストラクターに復帰して3年が経っていた。


「芸能発表会は上手い下手に関係なく日頃の練習の成果を発表する場であり、ご出演、ご来場の皆さまが、春の楽しいひと時を心ゆくまでお過ごしいただくことを願う場です。」


 毎年春に行われる。この文化センターの芸能発表会で披露される美名子さんのクラスのダンスはピカイチなのだが、生徒数は伸び悩んでいた。


 その原因を探るため、辞めたいと言われる生徒さんたちから聞き取り調査を行ったところ、あるひとりの男性が浮かび上がったのだ。


「何故、貴方は『振り付けを早く覚えろ』とか『下手だ』とか『もっと練習しろ』とか叱るのですか?」


 その男性は壮年と言ってもいい年齢で美名子さんがインストラクターに復帰する何年も前からこの講座を受講している人物だった。


「何故って、それは下手だからさ。俺は励ましているつもりだ。現実にそう言うと上手くなるんだぜ。言ってやるべきだろ。」


「確かに『ナニクソっ』と頑張って上手になる方もいるでしょう。ですが今精一杯練習している方もいるのです。そういう方はどれだけ頑張ってもボロクソに貶されるのなら、手を抜きたくなったり、辞めたくなったりするのです。そういう方々の気持ちを考えたことがありますか?」


 発表会のダンスのレベルさえ上がれば、他の人間が辞めていこうが何しようが関係が無いという考え方のようだ。


「だってよ。下手なヤツはいつまでも下手だけど少しでも上手になる可能性があるのならば言ってやったほうが良いだろ。」


 確かに初級・中級・上級とあって上のクラスに上がるにはオーディションがあるようなダンス専門のプロ養成所ならば、足を引っ張られるのは困るだろうが、ここは文化センターである。そんな意識を持つ必要が無いのである。


「良く無いです。少なくとも貴方はこの教室の指導者ではありません。それを言う立場には無いのです。」


「だが俺の方が上手いんだぜ。言ってやるのが親切というものだろうが。」


「わかりました。では言い方を変えましょう。貴方も会社では部下を持つ立場だと思いますが、今日配属された新入社員が褒めて伸びるタイプか、叱って伸びるタイプか、どうやって区別を付けますか?」


「そうだなあ。まずは褒めてみてダメだったら叱るかな。」


 なんだ。結構まともな上司じゃないか。


「それはどうしてですか?」


「どうしてって、辞められたら困るんだよ。半年も掛けて研修をやったのに1ヵ月くらいで辞めていく奴が多いんだぜ。」


「ええ、私たちも生徒さんに辞められては困るんです。貴方も新しい生徒さんが褒めて伸びるタイプか叱って伸びるタイプかわからないでしょう? 美名子先生はそれを慎重に見極めながら、生徒さんに接しているんです。それを貴方は横やりを入れているんです。例えば、貴方の部下で叱って伸びた人間が同じように横やりを入れて来たら、どうしますか?」


「それは止める。どうして言うことを聞かなければ引き離す・・・あっ。」


「そうなんです。貴方が他の生徒さんを叱ることを止めなければ、我々は貴方を引き離すしか無いのです。ですから、インストラクター養成所の初級クラスに推薦したいと思っています。如何でしょうか?」


「そんな・・・1度見に行ったことがあるがあんなのについていけないよ。」


「それでは、ここでずっと『お山の大将』をやりたいとでも仰るのですか?」


「ちょっと那須くん。言いすぎよ。」


「美名子先生は黙っていてください。これは貴女の進退問題でもあるのですから。」


     ☆


 結局、その男性は『良く考えてみる』と言ってくれた。これ以上はどうしようも無いのだ。強制的に排除する権利は持っていない。


「美名子があの男を放っておいたのが原因だ。全くたまの休みだというのにこんな憎まれ役。」


 僕がそう告げると下を向いて黙り込んでしまった。


「美名子の周りの人間はプロばかりだったから、叱れば伸びたかもしれない。だけど褒めればもっと伸びたかもしれないんだ。」


「そうね。そうかもしれない。でも尚子先生もそんなふうだったから、それに比べれば随分優しいつもりだったの。」


「『優しい叱り方』と『褒めて伸ばす』は全く別だよ。美名子は、まず世の中にいろんな人間が居ることを知ったほうがいいね。僕みたいに大男でも冷え症の人間も居るし、美名子みたいな小柄な女性でも汗掻きの人間も居るんだよ。ダンスやりたいと思って来てもハングリー精神の欠片も無い人間もいるんだ。」


「そうね。ここは荻ダンススクールじゃ無いのね。」


「だから発表会のレベルがあがるからと言って、あんな越権行為を見逃しちゃダメだ。あの男性は君の生徒であって、アシスタントでも先生でも無いんだから。今度、やったらちゃんと叱れよ。」

冷え症の大男は実話です。

世の中にはいろんな人間がいるのです。

わかっているようで、意外とわかっていなかったりしますよね。

意識の外にあったり、差別したり。

A型は几帳面でO型は大雑把と言うみたいなものです。

バカバカしい限りですよね。

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