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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のエアポート滞在記
25/32

第5話 年増好きだなんて言われたくなかった

お読み頂きましてありがとうございます。


遅くなりました。ようやく再開です。

「ハイっ! 注目してください。」


 僕が大声を出すとフードコートのカウンターの向こうに隠れている人々の息の飲む音が僕の聴覚に捉える。


「今テロリストたちは4階のチェックインカウンター付近にいます。成田国際空港警備隊の方が優勢になりつつあります。このまま撃退してくれればいいのですが、劣勢を挽回しようとこの階に登ってきて誰かを人質に取る可能性が出てきました。」


 周囲からは悲鳴や嗚咽が漏れてくる。かなり精神的に追いつめられている状態らしい。本当なら言葉を選びたいところだがそんな時間さえも惜しいのだ。


「エレベーターを使って10名ずつ1階まで降ろします。弾除けは僕たちです。防弾スーツというものを着ています。このまま此処に隠れているのも自由ですが我こそはと思われる方は申し出てください。」


 10秒待っても20秒待っても誰も手を上げない。1分経過しても3分経過しても黙り込んだままだった。


「わかりました。」


 やはり弾が飛び交う中エレベーターを使いたいと思う人は居なかったようだ。


 僕たちは牛丼のスキスキのカウンターに近付いていく。


「山田ホールディングスからやってきました。非常勤取締役の那須新太郎です。あなた方を助けに来ました。この防弾スーツは山田社長が開発したものです。信用して頂けないでしょうか。」


 とにかく目的を達しないと渚佑子さんに怒られる。何とか説得しなければいけない。


「山田氏の防弾スーツって世界中の特殊部隊のエリートのみが着用を許されると言われていて1着1億円はすると言われているものですよね。」


 『西園寺れいあ』が興奮気味に話し掛けてくる。なんでそんなに詳しいんだこの女。これは極秘情報中の極秘情報だぞ。『西九条れいな』と社長の関係も表面上単なる映画のスポンサーという関係にしか見えないように装っているはずなのに。


「そんなに目を剥かなくても大丈夫よ。都市伝説として広まっているものだから。でもその態度だと本当のことなのね。」


 しまった。引っ掛けられたみたいだ。探偵が言質を取られてどうする。


「あのう。よろしくお願いします。」


 牛丼のスキスキのフードカウンターから1人の女性が顔を覗かせる。50代の女性店長さんらしい。当たり前だが顔面蒼白だ。勇気を振り絞って出てきたのだろう。


 その時だった。突然、銃弾の音が鳴り響く。


「キャー。助けて!」


 『西園寺れいあ』が抱きついて来ようとしたので避けて、呆然として動けないでいる女性店長さんに抱き付く。


「大丈夫ですからね。まだエスカレーターの半ば辺りですから、それで他の店員さんは何人いらっしゃるにでしょうか?」


「私、1人です。渚佑子さんから連絡を頂いたあと直ぐ、私の独断で客に紛れて従業員やアルバイトはチルトンホテルに向かわせました。」


 つっかえつっかえだけど気丈にも僕の質問に答えてくれた。


「何故! 貴女も逃げなかったんです。」


「全てのお客様を優先的に送り出すのが義務だと思ったんです。そして私も逃げようとしたところ、渚佑子さんから連絡が入ったのでここで待機していたんです。」


 そうか会社の悪口を言われるのが嫌だったんだな。会社の汚名は濯げばいいが命は戻って来ないんだから優先的に考えて欲しいと社長は思っているはずなんだけど、上手く噛み合っているようで噛み合って無いな。


 それにしても渚佑子さんは従業員カードのICタグの状況で従業員それぞれの位置を把握していたんだな。


「貴女が怪我をしたら社長が悲しみますよ。会社のことよりも自分のことを一番大事に思ってくださいね。では行きましょう。」


「何で、そんなオバさんを抱きしめているのよ。もしかして年増好きなの!」


 外野が煩い。どうせ年増好きですよ~だ。


「待ってよ。」


 無視してエレベーターに乗り込むとテレビ局のカメラマンとスタッフが乗り込んでいた。それもカメラを持った状態で。


 何を考えてやがるんだ。ドキュメンタリーでも撮影しているつもりなんだろうか。有り得ないだろうが。それらの機材を退ければ2人以上は乗れるのに。


 その思いは志正も同じだったらしく。機材を彼らから奪い取ると外に放り投げた。


「何をしやがる。」


 カメラマンが顔の見えない志正には埒があかないと思ったのか。こっちに噛みついてくる。


「それはこっちのセリフです。ほら貴方たちも降りてください。」


「何故だ。警察には俺たちを助ける義務があるはずだ。そのために税金を払ってやっているんだからよ。」


「義務。そんなもの無いです。僕たちは民間人ですからね。乗っていても構わないですけど、貴方たちの弾除けは一切しませんから、どうなっても知りませんからね。それでも良ければどうぞお乗りください。」


 言外に死んでも知りませんと付け加える。誰が守ってやるもんか。流石に当たるように仕向けるつもりは無いけどね。


「くそったれ!」


 そう言って彼らは降りていった。


「他の方も聞いてください。僕たちはもう一度昇ってきます。それまでにどうするか。決めておいてください。先着順としますので、この警察官に従ってください。」


 僕が声を張り上げる。出雲さんを置いてエレベーターの閉じるボタンを押すとそこにちゃっかりと『西園寺れいあ』が乗り込んでいた。

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