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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のエアポート滞在記
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第2話 名探偵はズルイ

お読み頂きましてありがとうございます。

「仕方が無いか。滑走路を突っ切るのは諦めますよ。」


 パン切り庖丁でフェンスを破れば5分程で第2ターミナルビルだと思うと気が早ってしまった。熱くなってどうする。僕はこんなキャラクターじゃないはずだ。


 僕の嗅覚では、また1人、また1人といなくなっているのがわかる。聴覚では悲鳴だけでなく『おかあちゃん』とか命乞いの言葉とかが聞こえてくるのだ。


「あっ・・・また。これで37人目です。」


「もう聞くんじゃ無い。那須くんがおかしくなってしまう。」


「大丈夫です。僕には、彼らの最後の言葉を聞いてあげるくらいしかできないんだから・・・。それに麻痺してきましたから。ほら、またひとり・・・。」


 きっといまごろ刑事局長(ヨーちゃん)も突入命令が出せなくてイライラしているはずだ。それを思えば僕が受けている衝撃なんてたいしたことは無い。


「見つけました爆弾です。第2ターミナルビルの第3駐車場4階のターミナルビル側から数えて2列目左側から数えて5台目の車に仕掛けられています。それから・・・。」


 次々と爆弾を見つけていく第1ターミナルビルにも第3ターミナルビルにも存在する。どうやら、どの方向からでも逃走できるように仕掛けられているようだ。


「おいおい。何処へ行くつもりなんだ。こっちは第5ターミナルビルの方角じゃないか。」


 後ろに瑤子さんを乗せていない所為か道が平坦だったためか、その場所には20分ほどで着いた。


「第5ターミナルビルの従業員口なんて良く知っていたな。だがここも封鎖しているはずだぞ。」


「解ってますよ。でも、警察関係者で通ってはダメなのは瑤子さんと同行している男性でしょ。出雲さんは止められていないし、出雲さんの協力者である僕も大丈夫ですよね。」


「流石は名探偵様だ。良くもまあそんなズルイ手段を思いつくな。」


「褒めて貰ったと思うことにしますよ。」


 ようやく第5ターミナルビルにある地下駐在所に到着した。ここからは成田国際空港警備隊の本部にテレビ電話回線が繋がっているはずだ。


 そこにはホテルの支配人と成田国際空港警備隊の役職付きと思われる警察官が待機していた。


「やあサトウさん。こんにちわ。」


 彼は球団社長が生まれた異世界に転生した『勇者』とハーフエルフの子供だ。このホテルの支配人を任されている。


「那須くんが担当か。良かった。空港をぶっ壊される心配は無いな。」


 渚佑子さんや球団社長の奥様ならどっちがテロリストかと思う結果になるからな。


 球団社長なら極力穏便に動くがキレると同じ結果になるだろう。


「サトウさんにはもっと違う心配ごとが待ってますよ。」


「わかっているよ。あんな輩の侵入を許した咎めだろ。志村にお願いすればなんとか・・・なればいいな。」


 形は山田ホールディングスの子会社だが実質的に異世界のエルフ、パリス・チルトンがこちらで営業できる見返りに隣接する施設の守護をする義務があるのだ。今回の件はクレームとして伝わるに違いない。


 志村さんも異世界に転生した『勇者』でサトウさんのお婆様であるパリス・チルトンとの関係は深いものがある。


「あんまり志村さんに頼り過ぎると異世界に戻ったときに総スカンを食いますよ。」


 僕がそう言うとサトウさんは頭を抱えている。本人もわかっているらしい。


     ☆


 サトウさんの権限で成田国際空港警備隊の本部とテレビ電話を繋いで貰う。


「ヤッホー瑤子さん。30分ぶりだね。先に空港内に入ったよ。」


 成田国際空港警備隊の本部は第2ターミナルビルの外にあるのだ。


 隣に居た警察官にギロリと睨まれてしまった。極力明るく言わないと犠牲者たちの悲痛な声が耳についてはなれない。これは当分悪夢にうなされそうだな。


「ほら搖太観てみなさい。もう入り込んでいるじゃない。だから初めから刑事局長のお墨付きを与えて爆弾を見つけさせていれば突入命令も出やすかったわよ。」


 そうかな。政治家の危険回避力は凄まじいからな。マスコミにでも追い詰められないと自分からは出さないに違いない。


「ヨーちゃん。死者は丁度50人で打ち止めみたいだ。テロリストたちは第1ターミナルビルの方向へ向かっているよ。まだ突入命令は出ないの?」


 ここまで大規模なテロになってしまうと突入命令は国家公安委員長か、法務大臣か、総理大臣しか出せないのだろう。成田国際空港警備隊にどれだけ犠牲者が出るかわからず躊躇しているに違いない。


「説得しているんだが誰も彼も逃げ腰になってしまっているな。」


 世の中には危機のときに全責任を負い叱責激励に奔走する政治家も居るがそういう人間に限って、本当に全ての責任を負わされてクビになってしまうのが日本という国なのだから、逃げ腰の政治家ばかりが育つのも無理が無い。


 きっと刑事局長(ヨーちゃん)が勝手に出してくれないかなとでも思っているのだろう。痺れを切らしたヨーちゃんが突入命令を出して多数の犠牲者が出れば責任を取らされる。起訴もされるだろうし、証人喚問もされる。スケープゴーストにされてお終いだ。


「ダメだ。もう遅い。通路を守っていた警備隊に死者が出たみたい。だから僕が行ってくるね。」


 少し遅れて警備隊からも連絡が入る。突破されてしまったようだ。


 こうなれば一刻の猶予もない。全速で第1ターミナルビルの最上階のフードコートに行って牛丼のスキスキの従業員たちを確保してこなきゃいけない。


「ダメだ。おい誰か止めろ! 出雲! 何やっているんだ。」


 隣を見ると出雲さんが防弾チョッキを装備しているところだった。僕も服をパンツを除き全て『箱』スキルに仕舞う。誰だ。生唾なんか飲んだの。瑤子さんだな。恥ずかしいな。もう。


 そして緊急時の装備品を装着していく。これは山田ホールディングスがイギリスのSASを始め各国の特殊部隊に納入している防弾スーツの次期バージョンだ。オリハルコンとミスリルを糸状にして編んだ防弾スーツを装着する。


 顔にはオリハルコンを編み込んだポリカーボネート製のマスクを装着する。少々見難いが仕方が無いだろう。


 掌だけは無防備だ。『箱』スキルを使うのだから仕方が無い。その上に現役時代のユニフォームを着ていく。これでテロリストに間違われることは無いに違いない。

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