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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
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第1話 トラブルメーカーという名前のヒロイン

お読み頂きましてありがとうございます。


芸名『西九条れいな』

拙作「私の彼氏は超肉食系」のヒロイン。

周囲に敵を作らずに行動できない女性。

 結局、刑事局長(よーちゃん)は長野県警本部から派遣されてきた神谷警部に背負われて、僕の後について犬噛巳村に到着した。


 どう考えても足手纏いなんだけどな。素直にお留守番をする気は無いらしい。民間人の僕が警察官の2人の安全を気遣いながら行動しなければいけないなんて間違っている。神谷警部の力量も解っていない今の段階じゃあ仕方が無いのだろうけど。


「何処行くのよ。頂上はあっちでしょ。」


「ついでついで。」


 いい匂いに釣られて寄り道していく。僕の嗅覚がまつたけの匂いを嗅ぎ取ったのだ。


「あら、沢山あるのね。」


 山裾にある温泉地の住人によると犬噛巳村には十数件家と山寺、そして山を切り開いて作られた田畑以外に何も無いところだったが周辺の山々で採れる山菜、特に秋のまつたけを料亭に直接卸して生活をしているらしい。


「違うよ。周囲にあるのは良く似た毒キノコだから取らないで。この2本が本物のまつたけだから。」


 『鑑定』スキルを使いながら取らないと間違うこと確実だ。


 10キロメートルほど寄り道してようやく頂上に到着する。このまつたけは、後で調理して渚佑子さんに袖の下(さしいれ)として持って行くつもりだ。


 山頂に到着して道を歩いていた村民に聞いたところ、ここには村民のほか、一星テレビのスタッフが滞在しているらしい。『日本の秘境』という使い古されたテーマでドキュメンタリーを撮影するのだという。


「『西九条れいな』さん。こんなところで何をしてらっしゃるのですか。」


 古ぼけた村役場に到着すると思わぬ人物と再会することになった。


 芸能界では数々の男性遍歴で有名になった女優であり、一星テレビや三星新聞、五星レコード、七星映画、九星芸能と日本のメディア王と呼ばれているスターグループのオーナー夫人となったことで若い独身女性を敵に回した女性でもある。


 その実は、山田ホールディングスの元従業員の中でも一番の要注意人物である。過去には誘拐されかけたにも関わらず、いろんなところに首を突っ込みたがるので困っていると渚佑子さんに聞いたことがある。


「那須くん。何故、こんなところに。」


 僕が彼女に近付いて挨拶をすると険しい顔で瑤子さんが割り込んできた。瑤子さんも嫌いらしい。


「ちょっとシン。この女と知り合いなの?」


「瑤子さんは見識があるんでしたよね。この人は山田ホールディングスの元従業員なんです。直接、一緒に働いたことは無いんですが、あの高層マンションの住人なんですよ。」


 当たり障りの無い説明をする。現在は宮内庁病院へ非常勤医師として勤務の傍ら、世界的に有名な映画監督のスギヤマ氏の撮る映画の主演女優を務めている。


 本当は山田社長があらゆる意味でバックアップをしているのだが決して言ってはいけない。ほぼ100パーセントの確率で男女の関係を疑われてしまうからだ。だから普段から、わからないようにバックアップすることになっている。


「まさかシンもこの女の虜なの?」


 なるほど誘拐されたときに警視庁で瑤子さんの支配下(せんのう)から外れ、虜になった諸氏が多く出たんだな。既にあのときは第1作目の主演映画が公開された直後で各方面から注目を集めていたから無理も無い。


「バカ言わないでください。嫌いな人間の筆頭に上げてもいいくらいですよ。」


 これは本当だ。人のことはあまり言えないが山田社長にいろんな意味で迷惑を掛け続けている人間だから嫌いなのである。その実体が凄く優しい女性であることは知っているが、それはそれ。これはこれである。


「シン、どうしたの。人格が変わっているわよ。」


 僕のどんな女性に対しても優しい普段の言動とは全く違うので瑤子さんは驚いているようだ。


 まだ僕たち『勇者』のようにスキルを持って対処できるのならいいのだが、何の能力も持ってないくせにトラブルに頭を突っ込みたがるので困るのである。


 普段はスターグループのオーナー夫人として、Ziphone系列のSP(セキュリティーパートナー)と行動を共にしているはずなのだがその姿も見えない。


「那須くん。そんなことをワザワザ言いにきたわけ? 随分と暇なのね。」


 僕が常にこんな態度なのが気に入らないのか。決して馴れ合ったりしないのがお互いの暗黙のルールになっている。向こうはどう思っているかわからないが僕に取っては天敵と言っても過言じゃない。


「事件に巻き込まれたら、すぐに渚佑子さんに連絡を取れと言われているはずですよね。それに何故傍にSPがいらっしゃらないのでしょう?」


 僕はそう言いながら、渚佑子さんに連絡を取る。彼女も衛星通話対応のSIMカードを与えられている人間の1人だ。連絡がつかないなんて言い訳もできないはずである。


「だって私はそんな器じゃないもの。」


 これだ。この自分に対する過小評価により、周囲の人間がどれだけ迷惑を被っているか、わかってないのだ。これ以上は水掛け論になってしまうので黙殺することにする。


「・・・そうですか。わかりました。そのように対応させていただきます。」


 僕は渚佑子さんに経過を報告すると指示が飛んできた。


「渚佑子さんはなんて言っていたの?」


 彼女も渚佑子さんが怖いらしく下手にでてくる。


「渚佑子さんが到着するまでの間、貴女は僕の管理下に置かれるそうです。よろしいですね。」


 基本的に渚佑子さんの指示内容は絶対に守らなくてはいけないことの一つだ。おそらく山田社長よりも心理的に強い。


 渚佑子さんのスキルを隠そうともしない脅しを受けた悪人が発狂し出すのを何回も目撃している僕は、逆らったら最後、どんな恐怖を味あわされるかわかったものじゃないという思いがある。


「は、はい。」


「では事件経過を報告してください。どうせ貴女のことだから、各方面に首を突っ込んで情報収集は行なっているんですよね。」

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