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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
17/32

第16話 おきまりのシーンだけど何かが違う

お読み頂きましてありがとうございます。


『一条裕也』本名も同じだが『ユウ』名義で女優として活躍中。

拙作「私の彼氏は超肉食系」の準主役。

性転換後も超肉食系には変わりなく近寄ってくる男どもを喰い散らかしているらしい。

 羽根さんによると酒井さんを探している最中に覆面の男に襲われたそうだ。突き出されたナイフを腕で庇ったところ、ナイフが突き刺さり相手が手を離した隙に走ることに自信があった羽根さんはそのまま逃走して逃げ切ったそうだ。


「これでも学生時代は50メートル6コンマ63秒で走ったんだぜ。凄いだろ。」


 プロ野球選手は大抵6秒から6コンマ5秒くらいで走れる。僕もプロテストを受けたときには6秒を切っていたはずだが、今は言わないほうがいいよな。


「ええ凄いですね。でも何であんなところに立っていたんですか?」


「一番端っこの大きな屋敷に助けを求めたんだけどよ。締め出されたんだ。薄情だろ。絶対に村の奴らがやったんだ。」


 それはそうだろう。玄関を開けて入ってこようとする血だらけ男が居たら、誰もが門を閉ざすに違いない。


 市子さんの話では『観奇谷鬼好』の処分に困り警察に引き渡そうとしていたタイミングで血だらけの男が入ってこようとしていたので驚いて手を離してしまい逃げられたそうだ。


 全く厄介な男を取り逃がしてしまった。


「そんな都合のいいときだけ助けてもらおうと思うからですよ。この村のコミュニティーを壊さないように信頼関係を作っていかなければ、当然そんな反応が返ってきますよ。それでもちゃんとお礼を言っておいてくださいね。この村の診療所を使わせて頂いたんですから。」


「あっああ。」


 この男が珍しく肯定する。


「それと志保さんにもですよ。」


「ああっ。わかっているよ。」


 そう言って顔を赤くしている。どこまで演技なのかはわからないが全ての処置が終わったあと、無表情の顔から薄っすらと『よかったですね』と微笑み掛けられ、顔を赤くしていたのを思い出したらしい。


     ☆


 その夜、夕餉のひと時が終わっても真神さんは戻ってこなかった。


 今回の事件に関わりがあるとは思えないが事情聴取のために探して貰うように頼んである。小さい村だ。全ての場所を探しても半日も掛からない。そのうちに帰ってくるだろう。


 本人が刺されたと言っている時間には一星テレビのスタッフでは酒井さんと真神さんを除き、全ての人たちと合流していたのだ。


 調整役で忙しいのかもしれない。酒井さんが逃げ出し、羽根さんがリタイヤした今、交渉役は全て彼の肩の掛かっているのであろう。撤収するための手続きや人足の手配などやらなければならないことが多いんだと思う。


 その時だった。耳をつんざく悲鳴が家の中に響き渡った。方向からして風呂場の方向だ。


 慌てて僕たちは風呂場に向う。


「どうしたんですか。吉長さん。」


 そこには素っ裸の吉長さんが佇んでいた。


「窓から人が覗いていたの。」


 風呂場の窓を指差して震えている。風呂場を覗きてみるが誰も居ない。まあこれだけ暗けりゃ外に潜んでいても解らないだろうが僕の聴覚でも人が居る気配は伝わってこない。


「シン・・・ダメじゃないの。女性を裸のままにしておいちゃ。タオルくらい掛けてあげなさいよ。それとも彼女の裸に見とれていたの?」


 瑤子さんは脱衣所の前で他の男性が入ってこれないようにしている。


 確かに見とれるくらいに綺麗な身体だ。スラリとした身体に胸は両手で隠しているようで隠れていない。結構大きいようだ。


「う・うん。まあ良く出来ているなあと思って感心していた。俳優だったから立ち振る舞いで背を低く見せかけているんだと思っていたけど。咄嗟に出た悲鳴もとても女性らしい声で声帯もイジっているのかなあって・・・あれっ。搖子さん、何を呆けているの?」


「シン誰の話をしているのよ。」


 これだけ言っても解らないらしい。


「ああ。もちろん彼のことだよ。『一条裕也』さん。性転換後の現在は『ユウ』名義で女優さんをやっているんだよね志保さん。メイクもできるとは思わなかったけど。」


 丁度、脱衣所に到着した志保さんに問いかける。だからこそ躊躇せずに脱衣所に飛び込んだのだ。


「なんだ知っていたのね。」


 昼間は伊達メガネをしていたので気付いていないフリをして密かに護衛の役割を担って貰っていただいていた。彼を同行させることで和重さんも行くことを許したのだろう。今頃後悔しているかもしれないが。


「まあね。こうやって並べてみると本当にソックリだね。身体を改造するときに大きさや形を参考にしたって本当だったんだね。とても綺麗だ。」


 『超感覚』スキルの視覚による採寸でもスリーサイズは数ミリも違わない。


「どこまで観察しているのよ。想像しないで! いやらしいわね。」


 志保さんが珍しく顔を赤くしている。


「想像してないよ。作り物は崩れないらしいからいいけど。」


 おそらく数ミリの違いは本物のほうの体形が崩れたからだろう。いくら女優としてエステに通わされていても医者として不健康な生活を繰り返していればそうなるのは目に見えている。


「失礼ね。崩れてないわよ。なんなら見せてあげましょうか?」


 志保さんは売り言葉に買い言葉なのか飛んでもないことを言い出す。


「見たくないです。見るだけなら、綺麗な彼の身体で十分ですから。」


 こちらの身体は徹底的に磨いているのだろう。チラリと見ただけだったが張りも十分備わっていたみたいだ。


「志保。この人なに? 変わっているわね。私が元男だと知っていたのに普通に接してくれていたのよね。しかも志保と比べて私のほうがいいと言ってくる男性は初めてみたわ。彼ノーマルよね。」


 そこで何故か僕から視線が外れて搖子さんに向う。


「ええ『熟女キラー』だけど。」


 志保さんは『見たくない』と言われたことが余程悔しかったのか苦々しげに顔を顰めている。


「へえ。アタックしてみようかな。那須くんだっけ。身体を褒めてくれたお礼にデートしようよ。元男の実力を見せてあげるわ。」


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