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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
15/32

第14話 ご来店をお待ちしております

お読み頂きましてありがとうございます。

「僕は『見立て殺人』だと思う。」


 司法解剖、正確には遺族の同意や裁判所の命令が無い形だから行政解剖が終わり、死因は短剣による刺殺で間違いは無いようである。


 死亡推定時刻は午前3時。被害者がいつ寝床から抜け出したのか。他に誰が居なかったのかもわからないらしい。こちらは丁度、搖子さんと2回戦目に入ったところかな。


「犬神憑きの呪いだという演出よね。」


 解剖に神経を使い果たしたのか志保さんは村役場の3人掛けソファーで吉長さんとぐったりとしており会話には入ってこない。


「ただあの狼男のマスクと銀製品がいまいち腑に落ちないんだよな。狼は犬科の動物だから犬に見立てたのかなと思うんだけど、銀製品が良くわからないんだ。今、ネット調べてみたけど短剣もワイヤーも数万円はする代物だ。理由があって使われているとしか思えないんだけど。」


「そうよね。しかも志保さんの診立てでは、あのワイヤー、生きているときにぐるぐる巻きにされているの。大人1人を柱に縛り付けるなんて芸当どうやったらできるのよ。少なくとも2人か3人は必要だよね。」


「いっそのこと一星テレビのスタッフ全員がグルというならわかるけど、あの怯え方をみるとそうは思えない。あの市子さん。市子さんの息子さんが被っているマスクは何故狼男なんでしょうか?」


 少しだけ引っ掛かっていた疑問を犬噛市子さんに確認してみる。


「あれはネットショップで息子のアレルギー反応が出た範囲に丁度いい大きさのものを買い求めたのよ。こんなゴム製のマスクじゃなくてメッシュ生地で出来ているから通気性はいいのよ。人前に出るときにしか被ってないわ。」


 目の前には被害者が被っていたゴム製の狼男マスクが袋に入れられて証拠品として置いてある。


 こんな陸の孤島でも宅配便の配達範囲に入っている。大変だな宅配便の兄ちゃんも吊り橋を渡ってこなきゃいけないらしい。荷物自体は別のゴンドラで渡せるということだった。


「あーお腹すいた。ねえシンなにかあるでしょ。」


 もうお昼だ。いろいろ走り回っていたので朝食も食ってなかった。


「ああもちろん。今朝(・・)作ったばかりのサンドイッチがあるよ。」


 そう言って例によって『箱』スキルから紙袋経由でサンドイッチを取り出していく。サンドイッチはこれくらいの人数分は余裕である。


 もちろん、今日の朝作ったものじゃない。ホームベーカリーで作った食パンで作ったもので一番古いと半年以上前に作ったサンドイッチかもしれない。


 何かあったときのために1年くらい籠城できる程度の食糧は作って『箱』スキルに入れてあるのだ。その他にも賞味期限切れ寸前の冷凍パスタや冷凍ピラフといったものも調理して入れてあるが流石に知らない家にお邪魔しているので今日作ったとは言いづらいし、出来立てで出てくるので不審がられること請け合いだ。


 瑤子さんには何も言ってないのだが疑問にも思わずに要求してくる。


 ついでに出したポットに入ったコーヒーだけは本当に今日作ったものだ。まあコーヒーメーカーも豆も水も『箱』スキルから取り出したのだけど。


「ねえ。あれ出してよ。桃パフェ。」


出せる(・・・)かよ。」


 瑤子さんが調子に乗り出したので頭を小突いておく。確かにデザート類も数多く『箱』スキルに入っているけど周りを見ろよ。突然キンキンに冷えた桃パフェが出てきたらおかしいだろ。


「えっ。桃パフェがあるの? 桃パフェって、桃のソフトクリームと桃のシャーベットが層になっていて器の上に丸ごと桃が乗っているやつだよね。」


 桃パフェと聞いて食らいついてきた人間がいた。志保さんだ。


「池袋のダウダウって店の桃パフェを参考にしたから、そんな感じになっているな。」


 僕の場合は味覚を使ってレシピを作れるから参考どころかまるっとコピーだ。味も内容もそっくりに出来上がっている。実はドッグカフェを始める前に移動販売車に乗ってデザートの修行をしていた時期があったのだ。


 有名デザート店の近くでそっくりの味のデザートを少し安い価格で売って稼いでいた。そのときの店のひとつが池袋のダウダウさんだ。


 そこの店長さんは朝一番に食べに来た僕に対して、親切にも桃の産地から美味しい桃の見分け方、まるごと1個皮を剥いて種を取り出す方法までレクチャーまでしてくれたのだ。


「ダウダウの桃パフェ。美味しいよね。でも季節物で行列もできるから、なかなか食べられないのよね。近くに良く似た味の移動販売車が出ていたときはマシだったんだけどなぁ。」


 へえ意外と女の子っぽいところもあるんだ。


「その移動販売車が僕の店だったんだよ。良かった。今も流行っているんだなダウダウさん。」


 別に相手の店が潰れるほど荒稼ぎがしたいわけじゃない。相手の店が残っているからこそ、僕の作るパフェが意味があるのだ。口コミというのは恐ろしいもので桃の季節になると僕のドッグカフェに来てくれる客も『ダウダウそっくり』の桃パフェが目当てらしい。


「この頃は冬の季節に出す苺パフェも人気なの。みんな寒い中並んで暖かい店内で冷たいパフェを食べるの。」


「その苺パフェも出せるよ。」


 何度行っても親切にしてくれる店長に他の店の苺パフェのレシピを渡したのだ。桃パフェのレシピと一緒に渡したから信用してくれたんだな。


「「ええっ。食べたい!」」


 傍で聞いていた瑤子さんと志保さんの声がハモる。


 桃も苺もその季節で一番いいときのものを箱買いして『箱』スキルにいれてあるので暇を見つけては調理しているが出すときはその季節にしか出さない。出すとしたら渚佑子さんにお願い(ようきゅう)されたときくらいだ。


「ご来店をお待ちしております。」


 僕がそう言うと2人とも膨れっ面になっている。美人は膨れっ面さえも可愛らしい。

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