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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
14/32

第13話 狼男のマスクと銀製品

お読み頂きましてありがとうございます。

「銀製の短剣みたいですね。」


 『鑑定』スキルで見てみると結構純度が高いらしい。


 死体は山門の柱に座る格好で針金で括りつけられており、心臓を短剣で一突きといった加減である。


 検視官の資格を持つ搖子さんが何度もスマートフォンで写真を撮っている。その隣では監察医の研修を受けたことがあるという志保さんが死後硬直の様子を確認しているようだ。


 周囲には犬噛市子さんと村長さん、そして村の長老たちがその様子をジッと見守っている。


 もちろん、テレビ局のスタッフも一塊になってジッとこちらを見ている。


「もう臆病ね。そんな遠くから見て解るの?」


 搖子さんが呆れた表情でこちらに視線を送ってくる。つい小1時間前まで僕の首に縋りついていたときの表情とは大違いだ。


「十分わかるよ。僕は目もいいからね。」


 僕は現場検証の様子を2メートルくらい離れて見ている。


 今回の死体もグロテスクなのだ。傍で見ていなくても吐き気が込み上げてくる。


「もうそろそろ、マスクを取ってもいいかな刑事さん。」


 そうこの死体はマスクを被っているのである。おそらく狼男と思われるマスクだ。そうは言っても犬噛家で見たマスクとは別モノらしく顎までスッポリと被っている。しかも頬を×印に切り裂いたらしくマスクは飛び出した血で汚れている。


「いいわよ志保さん。」


 そのマスクを慎重に遺体を傷付けないようにハサミで切り裂いていく。もちろん、これも証拠品の一つだがマスクを遺体から剥ぎ取る際に出るキズを考慮して切り取るのがベストなのだそうだ。


「やっぱり大神さんのようね。」


 その下から現われた顔は興和製作の音声担当だった人物だ。マスクを被っていたときからそうだったがカッと見開かれた目が断末魔の驚きを良く表しているようだ。顔が一切血で汚れていない分、頬の×印のキズが生々しい。


「お―――。」


「あれは・・・。」


「犬神様じゃ。」


「犬神様が出よった。」


「とうとう犬神様を呼び出してしもうた。なんて愚かな・・・。」


 村の人々が真っ青な顔で口々に言い募る。あるものは震え慄き、あるものはがっくりと膝を付いた。


 抱えているタマに視線を移すと首を横に振っている。他に犬神が居るわけでもなさそうだ。


「ちょっと待って。・・・これも銀製品みたいだ。」


 括りつけてあるワイヤーを解いている志保さんを呼び止める。近くまで行って志保さんが手にしているワイヤーを『鑑定』スキルで確認した。


 何故、犯人はここまで銀に拘っているのだろうか?


 物思いに耽っていると周囲でぐぅっと何かが鳴る音が聞こえた。しかも次第にアドレナリン臭が漂いはじめた。これは拙い。こんなところでパニックが起こったら誰にも止められなくなる。


「さあ、お清めの方法を教えてください。この地方ではどんな弔いのやり方なんですか! 死体は本堂のほうで詳しく解剖するので誰かブルーシートを! さあ早く!!」


 僕は大声を張り上げ、次々と指示を出す。本当は指揮官である刑事局長(よーちゃん)の仕事なんだけどなあ。


 村人たちはその声に何かに打たれたかのような反応を示す。良かったパニックにはならなかったようだ。


刑事局長(よーちゃん)は市子さんと村長さんと村役場に行って今後の警備体制をどうするか考えてくれるかな。」


 国家公安委員長と総理大臣しか指示できないはずの刑事局長に僕が指示を出していいものか迷ったけどそんなことは言ってられなくなった。どうせ裏でこっそりお願いすることになるんだしいいよね。


「狼啼家と戌護家の方々は遺体を本堂に運び入れてください。志保さんは遺体を本堂に運び入れた後で解剖を、神谷警部はしばらく志保さんの警護をお願いします。」


「私は?」


「搖子さんは遺体を運び出した後の現場検証を続けること。空の様子がおかしいんだ。今にも雨が降りそうだよ。だから一刻も早く運び出さないと証拠が消えてしまうよ。」


 どんよりとした曇り空を指し示す。


「・・・・俺たちは・・・どうしたら・・・。」


 テレビ局のスタッフたちは皆、怯えた様子でこちらを伺ってくる。


「そうですね。僕を信用できるなら機材を全て寺に置いたまま、身体ひとつで真神家に来てください。それができないのなら、吊り橋が復旧するまで全員で一塊になって寺に居ればいいと思います。」


 もし彼らの中に犯人が居るのなら、機材の中になんらかの武器が紛れ込んでいる可能性もあるので機材を真神家に持ち込まれるのは危険だ。


「それは俺たちが信用できないと言っているのと同じじゃないか。俺たちの仲間が殺されたんだぞ。信用できないのはそっちだ。」


 カメラマンの浜田さんが言い募ると『そうだ』と次々に声があがる。


 警察官を引き連れてやってきた僕を信用できないのであれば、誰も信用できないということだ。まあ勝手にやってください。


「そうですか。仕方が無いですね。住職はどうされます?」


「ああ、村にある実家のほうへ引き篭もっておるよ。」


 住職とて人間だ。外の人間と一緒に居たくないのだろう。彼らの今までの行いが招いたことだ。誰からも何ひとつ手助けは望めないだろう。


     ☆


 村人の手を借り、本堂に死体を運び入れるとポツポツと雨が降り出した。僕は『箱』スキルからあるだけの傘とロープを取り出して死体が置いてあった付近に立てかけるとロープで結わいつける。


 現場保全としてはこころもとないけど、雨ではどうしようも無い。


「こんなものかな。」


「あれっ。あと1本だけなの傘。」


 志保さんと神谷警部は真神家から持ち出した傘を持って本堂に居るはずだ。


「いや。逢い逢い傘のほうがいいだろう?」


 僕は残しておいた一番大きな傘をさして搖子さんを引き寄せるのだった。

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