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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
13/32

第12話 事件が発生したときに何をしていましたか

お読み頂きましてありがとうございます。

 その夜は2部屋あった個室のうち、志保さんと吉長さんが同室でその隣に僕と瑤子さんが入り、廊下でよーちゃんと神谷警部が雑魚寝をすることになった。他のスタッフは寺の本堂に寝袋を持ち込んで泊り込んでいるらしい。また誰かが殺されるかもしれないというのに暢気なことだ。


 普段の生活なら夜11時には寝てしまうのだが地震があっても起きられない僕では何か事件が発生したら起きられないと思い、目だけは閉じて聴覚と嗅覚に神経を集中させていた。


 12時を回った頃だろうか隣で瑤子さんがむくりと起き上がった。トイレだろうと思ったが、寝ぼけているのだろうか全く動く気配が無い。神経を集中している嗅覚が反応するフェロモン臭がだんだんと強くなってきている気がする。


 あまりにも気になったので薄目を開けて視覚を広角にしてみると、そこには舌なめずりする狼の顔があった。これで頬にメ字にキズが入っていれば、村役場にあった面とそっくりだ。


 なんだろう。タマが瑤子さんに乗り移って動かしているのか。それとも人を操る秘儀がこの村に存在するとでもいうのだろうか。


 でもタマはスヤスヤと部屋の隅で寝ているし、僕の聴覚は家の周囲で誰かが潜んでいるような音を捉えていない。


 瑤子さんがおもむろに僕に唇を重ねてくる。僕はどう反応していいか判らずにされるがままになっている。


「シン大好き。」


 うん僕も好きだよ瑤子さん。


 瑤子さんの舌が強引に入り込んでくる。もどかしそうに僕の舌に絡ませてくる。


「何故抱いてくれないのよ。」


 何故かと聞かれても困る。


 欲望を感じないわけじゃない。瑤子さんはとても綺麗で素敵な女性だと思っている。思っているからこそ、自分の中途半端な思いで抱いてしまっていいのかと考えてしまうのだ。まあ警視庁の全署員を敵に回したくないというのもあるけど。


「私を自由にしていいのに。」


 瑤子さんが僕の腕を取り、自分の浴衣の前あわせに滑り込ませる。物凄く幸せな感触だ。思わず触覚に全神経が集中してしまう。


「あ・・ふぅん・・。」


 僕はこのまま寝ていてもいいのだろうか。


「ごめんね。こんなことを何度もしてしまう私を嫌わないでシン。」


 『何度も』って、今までもあったということだよね。


 それって知らない間に美味しく頂かれていたということ・・・マジか。


「あっ。」


 下半身に手が伸びてくる瑤子さんの腕を迷わず掴み取り、攻守を交代した。


     ☆


「ゴメンな。そこまで我慢させてるなんて思いもしなかったよ。」


 まずは先制攻撃を仕掛ける。相手が悪いことをしたと思っているときにこそ先に謝ってみせる。絶大な効果を発揮する攻撃方法だ。


 長い間お待たせしてしまっていたことは帳消しにして貰えるはずだ。


 一線を越えてしまったことは後悔していない。未だに心が定まっていないのは確かだがそれはそれ。これはこれだ。


「ううん。ごめんなさい。私のほうこそ、こんなことをしてしまって。」


 瑤子さんは物凄く小さくなっている。


「それで今回で何回目なんだ?」


 さらに攻撃を続ける。何がでてくるか怖い気もするが攻撃の手を緩めてはいけない。相手は常に凶悪犯と立ち向かっている警察官なのだ。緩めた瞬間あっという間に持って行かれるだろう。


「・・・。・・・・。・・・・・。」


「おいおい、いまさら誤魔化しても仕方が無いのは解っているだろう?」


「2回目よ。」


 さらに追い討ちを駆けていくとようやく口を開いてくれたが僕の聴覚に若干の震えを捉え、嗅覚が背中に流れる汗の臭いを捉える。


「本当は?」


 こういう時こそ声に感情を乗せずに質問するのが自白させるコツだ。百戦錬磨の警視庁捜査1課長相手には僕が探偵で培った技術を全てつぎ込んで追い詰めるしかないのだ。


「4回目。」


 がふっ。瑤子さんとよーちゃんを連れて旅行に出かけた回数そのままじゃないか。・・・まあその回数も気にならないほど、瑤子さんを何度も抱いてしまえばいいんだよな。


「つまり毎回か。気付かなかった僕がバカなんだろうな。地震が来ても起きないどころか殺されても起きないかもしれないな。それでエッチしても起きないって誰から(・・・)聞いたんだ?」


 ワザと大げさに嘆いてみせて、最後の追撃に取りかかる。


「・・・・。」


 沈黙が語るのは図星だからだろう・・・マジか。


「そうか尚子さんか。尚子さんからも問い質す必要がありそうだな。他にこのことを知っている人間は?」


「大丈夫よ。私たち兄妹たちだけの秘密なんだから。」


「それって・・・よー・・・いや何でもない。」


 怖い想像をしてしまった。もう遅いかもしれないけど。


     ☆


 その後、それまでの損失を取り返すように何度も身体を重ねていると夜が明けてしまった。


「大変です。刑事さん! 殺人事件です。」


 そのとき、真神家に人が飛び込んできた。


 しまった!


 聴覚と嗅覚に神経を集中するのを忘れていた。


 まあ瑤子さんとのエッチより大事なものなんて無いのだから仕方が無いよね。

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