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帰還勇者のための休日の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵の温泉旅行記
12/32

第11話 名探偵は悔しいのです

お読み頂きましてありがとうございます。

「志保さん。あのアシスタントディレクターの真神さんってどういう人なんだい。」


 アシスタントディレクターといえばタフじゃないと務まらないと言われて久しいが真神さんはどちらかと言えば気弱な感じがした。純朴そうで実際に上司たちに顎で使われてもテレビ局側でも地元側としても下請けの興和製作に対しても何か悔しそうにしている様子が伺えたのだ。


「元々、この企画は真神さんの元上司である井川ディレクターが抱えていた案件だったの。でもその井川さんが女性問題で会社を辞めたので案件ごと羽根ディレクターに回ってきたのよ。だから村に入るときの強引な手法に関しては井川さんならもっと上手くやっていたと思っているんじゃないかな。」


「一星テレビの最近の女性問題って、複数の関係者が未成年タレントと肉体関係と持った事件だよね。」


 結構、大きく報道されていた覚えがある。国営放送だったら1対1でもバッシングの嵐だろうが民放は大して報道されないことが多い。持ちつ持たれつなのだろうか。


「実際に被害者から名前が挙がったのはコナをかけていた井川さんだけで他の人間は覆面をしていたらしいわ。」


「じゃあ、真神さんは覆面をしていた誰かを知っていた。もしくは自分も関わっていた・・・ちょっと無理があるな。あの気弱そうな真神さんがそんなことを出来るとは思えない。」


 志保さん以外の人間にも殺される動機があると思ったけど無理があるなあ。例え知っていたとしても脅迫でもしない限り、殺されるところまではいかないだろう。


「その線もあると睨んでいるわ。実際に積極的に関係を持とうとしていたのはタレント側で被害者のフリをしている可能性があるの。所属事務所から多額の賠償請求が来ているからね。」


 女性タレントが真神さんにあっせんを頼んでいたとするなら、知り得る立場に居たと言えるかもしれない。


 しかい、未成年のタレントが有名になるために積極的に権力を持つ大人たちに身を任せるのか。世も末だな。しかも沢山テレビに出ても有名になれなかったといって訴えれば悪いのは大人たちだものな。怖い怖い。


「それで誰が1番最初(・・・・・・)に死体を発見したんだ?」


「「「えっ。」」」


「どうも話がおかしいと思ったら、警察官が3人も揃って誰も質問してないのかよ。」


 やっぱり指揮官がよーちゃんというのが問題だったのかな。


「この事件は吊り橋が落ちたのが始まりだろ。当然、とんでもないくらい大きな音が響いたろう。この村に居る人間が気付かないはずがないんだ。」


 僕だって始終聴覚に神経を集中しているわけじゃない。5キロメートル先の音なんか聞こえるはずもない。偶然、瑤子さんの裸体から意識を逸らして頭を冷やすために視覚に集中して川を坂のぼらなかれば死体も発見していないに違いない。


 しかも唯一の連絡手段である電話線も切られていてまさに『嵐の山荘』状態なのだ。どう考えても村に居た人間のほうが先に発見しているはずである。


「ええっと。確か酒井プロデューサーが『吊り橋が落ちた』と言って走り込んできたの。私と吉長さんが見に行ったら、橋が落ちていて川に人の形をしたものがあったのよ。」


「もっと、良く思い出してください。酒井プロデューサーは誰に向って『吊り橋が落ちた』と言ったんですか?」


「玄関先に居たのは私と吉長さんと真神さんと羽根さんだったわ。その後、真神さんは『村に知らせてくる』と言って飛び出して行ったわ。好奇心に駆られた私は吉長さんと一緒に吊り橋を見にいったのよ。」


「何時頃でしたか?」


「真神家に到着して荷物を運び込んだ後だったから午後3時くらいだったかしら。」


「じゃあ村人が『たたりじゃ』と騒ぎ出したのはその後だったんですね。」


 普通は何かがあって始めて人々はそれを幽霊のせいにしたり怨霊のせいにしたりするものだ。


「違うわよ。村に入ろうとしたときに『忌み月だから入ってくれるな』と言われたのよ。それを酒井プロデューサーが『たたり』があるとでも言う気ですかと尋ね返したのよ。」


「じゃあ村人が『たたりじゃ』とは言ってないわけですね。」


「そうね。事あるごとに酒井プロデューサーが『たたり』を繰り返していたけど真神さんの通訳が正しければ『たたり』なんて一言も言ってないわよ。」


「良かったですね。酒井プロデューサーが犯人で貴女が好奇心に駆られて1人で見に行っていたら、殺されていたかもしれませんね。」


「酒井プロデューサーが犯人なの?」


「あくまで『第一発見者を疑え』の法則で考えてみただけですよ。酒井プロデューサーは村人が『たたりじゃ』と騒いでいると印象付けた上で自分で吊り橋を落として、被害者とは別の誰かを突き落としたくて騒ぎ立てたかもしれないということです。単なる可能性の問題なので気にしないでください。」


「気にしないでと言われても犯人かも知れない人間の傍に居たくなくなるじゃない。」


「これでもまだ逃げ出したくないですか? そうですか。なんでそう意固地なんでしょうかね。」


 再度提案してみるがすぐに首を振られてしまった。


「なんでそう逃げ出すことばかり進めるの?」


「わからないんですか? 『西九条れいな』という人に恨まれやすい人物がここに居るんです。殺される動機も沢山ある人物です。でも本当に犯人は『西九条れいな』を殺したいのでしょうか。もし他に殺される動機がある人物・・・が居ても目が行き届かないんです。それが悔しいんですよ。」

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