第11話
よし、相手に興味を持ってもらえたようだ。困っているから助けると言う表向きの理由と魔法の威力を知りたいと言う疑問の解消、そして一週間振りに人と話したいという欲求を片付けられる上に次のクエストに繋げられそうな雰囲気だ。中々いい感じだ。
さて、久々の会話を始めるか。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら手を差し伸べる。中年男性は俺が使った魔法に驚いてへたり込んでしまったようだ。心の中で中年と連呼しているが多分俺と似たような年齢だろう。
「ああ、すまん。助かった」
俺の手を掴んで中年男性が立ち上がる。
ん?今掴んだ手に違和感があった。そこだけ魔力の流れがおかしい。俺は一週間の訓練で常時魔力の流れを感じられるようになった。ちょっと集中すれば色分けされた魔力を見ることも可能だ。今は恐らく何かしらの魔法を俺に使っているのだろう。
まぁ、この状況で害になるような魔法は普通使わない。使うとすれば恐らく何かしらを調べる魔法だろうな。直接攻撃に関する魔法はある程度自分で使えるようになったが調査や探知は使えるものが極々少ない。この点は今後の課題だな。
見ず知らずの男が突然現れて、苦戦している凶悪な獣を一撃で倒す。警戒と感謝が入り混じった状態になるのは予想の範囲内だ。ここは警戒心を少しでも薄らぐようにっと…
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
営業スマイルで答える。緊張状態から一気に解放されたところに笑顔で対応。これで安心感が増幅され信頼を得られるはずだ。
「ふむ、そう言って貰えると助かる。儂はアーガスという。この村で長をしている者だ」
村長さんだったのか。これは次のクエストに期待が持てそうだ。ああ、こちらも自己紹介をしないとな。
「私は旅の者でシュウと言います」
「助けてもらった礼をせねばな。とは言ってもこんな田舎の村なもんでな、大した礼はできんが…」
「いえいえ、そんなお礼なんて…」
「いや、あの熊を倒してもらって何もしないのは失礼だろう。せめて食事と今夜の宿くらいは提供させてくれ」
そう言えばこのゲームで誰かの作った料理をまだ食べたことが無い。ダンジョンでコインを入れたら出てくる謎のジュースとパンは飽きるほど食べたけど…。ここはありがたく一宿一飯をいただくことにしよう。
「ではご好意に甘えさせていただきます」
「おお、我が家はこっちだ。ついて来てくれ」
村長を先導に俺は今夜の宿に向かうことにした。この世界の手料理ってどんなものなのか…楽しみだ。