第三話『ダイアリー』
「忘れられた島に行くわよ」
俺を散々折檻した後に、清々しい顔でミコは言い放った。
倒れたままの俺は、ミコの残虐なまでのお仕置きに、多分三回は死んだ。
それはそれとして、『忘れられた島』とは一体何だろう?
「そこには、どうやって行くんだ?」
「さあ、知らない」
「はい……?」
尋ねる俺に、ミコは軽く肩を竦めた。
俺は困惑してしまう。
では、宝探しはどうやって進めるのだろうか?
「取りあえず、本というか日記だったんだけど、それを解読したら書いてあったのよ。でも詳しい場所までは書いてなかったのよね」
「意味わかんない。偽物決定だね」
妄想日記的な感じだったのではないかというのが俺の見解だ。
終わり終わりと、アパートに帰ろうとする俺の腕を、ミコがガシッと掴んだ。
「待ってよ。話はまだ終わってないわ」
「はいはい。それで?」
「問題は、これを誰が書いたかってとこよ」
言い張るミコに、俺はヤレヤレと肩を竦めてみせた。
そんな俺に日記を見せながら、ミコは力説する。
書いた人物によって
、何かが変わるのだろうか?
「スアレス教団の初代幹部、パーディス・J・フロストよ」
「スアレス教団って、あの邪神信仰の宗教団体の?」
「そうよ」
以前、俺はミコに巻き込まれて、邪神を復活させたカルト教団と敵対した事があった。
俺はその時、死ぬ間際の邪神に呪いをかけられている。
それ以来、名前も聞きたくないぐらい苦手だ。
というか、嫌な予感がしてくる。
「まさか……」
「そのまさかよ。今からスアレス教団に殴り込むわよ」
嬉しそうに話すミコに俺は愕然とする。
何故、日記をスアレス教団の幹部が書いたからといって、教団本部に行かなくてはならないのか?
全く意味が分からない。
「何で、そんな話になるんだ?」
「この日記にはスアレス教団と忘れられた島の人間は敵対関係にあったらしいのよ」
「それで?」
「敵対関係にあったって事は場所も知ってるだろうし、記録も残ってるかもしれないでしょ?」
私って頭良いでしょ、と言わんばかりにミコはどや顔て胸を逸らした。
確かに、ミコの言う通りだ。
恐らく、スアレス教団の本部に行けば、記録は残っているだろう……けど、かなりの危険が伴う。
はっきり言っていきたくない。
「……」
「行きたくないって顔してるわね」
「何故わかる!?」
俺の表情から、完全に心を読まれてしまったようだ。
俺の動揺っぷりに、ミコはフフンと鼻で笑った。
くそっ!
何か腹が立つ。
「でも無駄よ。例え行かなくても、私が折檻するからね」
「うぐ……っ!」
「行くのと折檻とどっちが良い?」
「……行きます」
言葉に詰まった俺に、ミコは二つの選択肢を用意した。
いや、こんなのは選択肢とは言わない。
ミコの折檻を受けるくらいなら、はっきり言って死んだ方がマシだ。
俺はがっくりとうなだれた。
「よろしい」
「そういや、あの外国人達はどうしたんだ?」
「パパが知り合いの警察の人に引き渡してたわよ」
いつの間にか、おじさんが連れてった外国人達の行方が警察で良かった。
もしかしたら、今頃刻まれて何かの餌にでもなっているのではないかと心配していたのだ。
「結局、奴らは何だったんだ?」
「拷問して聞き出したんだけど、犯罪組織タランチュラらしいわよ」
ミコの拷問は、組織のプロでも口を割るレベルである。
同じように折檻を受ける俺としては、同情を禁じ得ない。
拷問が終わった時には精神崩壊していた事だろう。
それにしても、タランチュラが関わってきているという事は、ミコが求める宝とは兵器的な何かかもしれない。
基本的にタランチュラは、銃や兵器の売買を主にしている組織である。
しかも、兵器として使えるのであれば、呪いでも魔術でも手に入れ売買するというのだから節操がない。
「宝が何なのか、書いてあった?」
「はっきりとは書いてなかったわよ。ただ、手に入れたら世界を手中に納められるって。宝って何なのかしらね」
何だかワクワクした顔で語るミコに対して、俺は自分の予想が当たってるかもしれないと、げっそりとしてしまう。
というか、ミコがこれを手に入れたら、本気で世界征服しそうで怖い。
何としてでも阻止せねば……。
「無駄だからね」
「え……?」
俺が一人そんな事を考えていると、ミコがポツリと呟いた。
まさか、また考えを読まれたのか?
ミコはそれ以上何も言わずにニヤニヤしているだけだった。
「いやいや、怖いから」
「フフッ」
「怖いからーーっ!!」
俺はミコの含み笑いに、恐怖して叫んだのだった。