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そこにあるのは、愛か、絶望か

詩的なタイトル。これは、等しく時を紡ぐ者たちへ贈る、素敵なバイブル。

「べっ、別に感謝とかこれっぽっちもしてないぞ! 勘違いも甚だしいクソ野郎だな、お前!」


 黒野 秋白と彼の母親を縛り上げ、事なきを得たミカさんが発した第一声であった。時を止めている間、僕がどれだけ苦労したかを知らない彼女だからこそ、そんなことも言えようものだ。

 二人を拘束するのは、当然ながら僕一人だけであって。言わずもがな、世界の時間が止まっているので、作業に手を貸してくれる者などいない。隣家から大の大人をきっちりしっかり縛っておける代物を探し当て、それを石像の如く完璧な不動を誇る二人の身体を持ち上げながら、全身にぐるぐる巻きにする。そんな作業を、体感にして約一時間かけて遂行したのは、誰あろう僕たった一人なのだ。

 それを、労うでも敬うでもなく、まず最初に罵倒しておくのが、彼女――立木 美日という女の子らしかった。さっきまでは普通の女の子だったんだけどなあ。おかしいなあ。

 さておき、それからミカさんは連盟本部に一報を入れ、増援を要請した。間もなく機動隊が駆けつけ、スキルを悪用した現行犯として黒野を、そして彼のスキルによって狂ってしまった母親も連行した。


「あの人、自分の意思でこんなことしたんじゃないのに、連れて行かれちゃうんですか?」


 僕は心配でミカさんに訊ねた。


「大丈夫。私たちの証言も交えて正式な事実関係を確認した後、私に襲いかかった行動の始終が全て黒野のスキルによるものと断定されれば、ほどなく解放されるでしょう。多分、記憶も改竄される。とびきりハッピーな記憶にね」

「ハッピーな記憶って?」

「息子は既に成人して海外に長期出張してるとか、もしくは既に他界してるとか――あるいは、最初から『あっくん』なんて産んでいない、とか」

「そ、そこまでしなくたって――」

「パンピーにスキルや連盟のことを明かすのは禁じられてるの。でも黒野の犯した罪は、スキルの存在を知らなければ到底立証し得ないもの……おそらく、黒野は死ぬまで【プリシオン】の中。一見何の罪も犯してない息子が忽然と消えたら、家族はどうなるの? 助かるべくもない息子を探して、一生を棒に振るわ。ないしは、たとえプリシオンから出られても、黒野はもう家族の知ってる黒野じゃない」

「プリシオンって、そんなに恐ろしいんですか?」

「極悪非道なブレイカーを収容する、AOA史上最悪にして最高の監獄よ」

「最悪にして最高……?」

「最悪な内部環境と、最高の警備体制とを備えた難攻不落の絶対要塞ってこと。あそこにブチ込まれて正気を保てたブレイカーはいない――大抵が発狂するか、良くても再犯よ」

「そんな酷い目に遭ったのに、また犯罪を繰り返すんですか……?」

「田中……プリシオンはね、イカれてるの。警備員は皆、ブレイカーをいたぶること、いたぶられたブレイカーがおかしくなることを何にも勝る愉悦と感じるの。だから罪を犯したこと自体を徹底的に悔やませておきながら、精神的ショックを与えて再犯に追い込み、また戻ってくるという最低の悪循環を生み出す。警備する側はまた犯罪者をいじめて楽しめるし、給料も右肩上がりで一石二鳥ってわけね。おかげで、あそこは退職率が極端に低いわ」

「どす黒いですね……」

「……だから家族は息子なんて『いない』方がいいの。最初から、息子なんて存在しない。そうすれば、どこかで辛い目に遭って、それきり帰ってこないとしても、見るも無惨な姿で帰ってくるとしても、家族は気にしなくて済むもの。もう真っ当な余生を滅ぼされた息子の面倒なんて、見なくて済むもの――」


 ミカさんの瞳からは、底知れぬ闇が窺えた。だから僕は、それ以上追及することはなかった。黒野はもう、二度と日の目を見ることはないだろう。全宇宙 (文字通り) 最高最悪の独房の一室に閉じ込められ、そこで生涯を終えることになるのかもしれない。たしかに、そんな末路を辿るくらいなら、家族は、息子なんていなかったで、めでたく幸せに暮らした方がいいのかもしれなかった。

 そんなわけで、事件は苦い後味をひっそり残し、終結した。

前書きはなんか語呂のいい言葉を並べたかっただけで、そこに意味や意図などはありません。


さて、徹頭徹尾そんな感じで意味もなく意図もないと言えなくもない本作ですが、こちらの他に作者が連載している、竜頭蛇尾や羊頭狗肉で終始しないこと請け合いの『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品がございます。毎度毎度、この後書きスペースの最後尾で口を酸っぱくして、あれやこれやと手を替え品を替え煽り文句を替えて宣伝しております、そうです、『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』です。こちらは意味や意図などがふんだんに盛り沢山ですので、塩ラーメンもいいけど豚骨ラーメンもまた一興という方は、ぜひご一読を。


塩豚骨ラーメンをご所望の方は、この際、二品交互に召し上がってはいかがでしょうか。

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