穴があるから入れ
どうも、abyss 零 です。なんか行き当たりばったりな物語を書く楽しさが僕の心の中で覚醒しつつある昨今です。
「私は傷つきやすい性格なんだぞ!」
僕が正座したのを見ると、女の子はまずそう言った。
「何が令状だ! 何が冤罪だ! そんなものクソ食らえだ!」
聞き捨てならない台詞だった。
「お前はムカつく! すげえムカつく! だから裁判では死刑を求刑するとしよう! お前、マジで覚悟しておけよ! 私の影響力は凄まじいんだぞ! どのくらい凄まじいって、令状がなくとも独断で罪を犯した疑いのあるクソ野郎を連行できる権限が与えられてるくらい凄まじいんだぞ!」
発言が逐一可愛い女の子である。つーか、そろそろ彼女のことを形容する度に女の子女の子連呼するのも疲れてきたので、ここいらで名前でも訊いておくか。
「あの~、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「はあ? なんで私が私の名前をお前に教えなきゃいけないんだよ。ふざけるのも大概にしておけよ。身の程を弁えろクソ野郎」
と、そんな具合に真っ向から拒否する女の子であった。傷つきやすい性格なら人を傷つけるようなことするなよ……。
「傷つきやすい私に、お前は残酷な言葉ばかり投げつけやがって……私、本当は超泣きそうだったんだぞ!」
「はあ……」
「何が礼状だ! 何が冤罪だ! そんなものクソ食らえだ!」
同じ台詞を繰り返す女の子。僕はいつまで正座で説教されるんだろう……。
「ふはははは! どうだ! 足が痺れてきただろ! 私は今までこの方法で何人もの小生意気なクソ野郎の苦しそうな顔を拝んできたんだ! 小気味いい! 愉悦を通り越して愉快だわこりゃ!」
もはや一体なんの話をしているのか分からなくなってきた。
「痺れた足をツンツンされると、すげえ変な声が出ちゃうんたぞ! 情けなくて格好悪いんだぞ! ほれ! ほれほれ!」
「あっ! うっ! ひっ! はっ!」
女の子が僕の足の裏を執拗にツンツンしてきた。彼女の宣告通り、僕の口からは今まで聞いたこともない嬌声が発せられた。うわ、誰の声だこれ。きも。
つーかマジで何がしたいんだこの女。男の奇声なんか聞いて悦に入ってんじゃねえよ。
「私、ママの膝枕で耳垢取ってもらいながら足の裏をツンツンされるの、好きなんだよね。あの背筋が芯からゾクゾクする感じが堪らない」
知らねえよ。耳の中が傷ついちゃうからやめておけ。
「あと、炭酸水を一気飲みした時に鼻がツーンってなるやつ、嫌いだけど好き」
「あ、それは分かるわ。あれは月一くらいでやりたくなるやつだわ」
「うるさい黙れ。お前に発言権なんてないんだよ。ただ正座して私の話を聞いていろ。つーかなんでタメ口なんだよ。ほんとマジでいい加減にしろよ。今度ナメた口叩いたらぶっ殺すぞ」
もうなんなんだよこいつ。段々こっちも苛々してきたわ。本気で彼女と相対しているのが苦痛に思えてきた頃合いに、僕はふと、女の子から視線を外した。見ると、先ほどまで女の子に殺されかかり、掃除用具入れの真ん前に放置されていた黒野が姿を消していた。
色々やってる内に逃げられてるじゃねえか。
「あ、あの……」
僕が恐る恐る指差した先を見ると、女の子は『あー!』と叫んだ。ようやっと事態に気がついたようだ――遅すぎだろ。こんなやつに逮捕されるのも、される側としては癪だわ。
「なんで!? ここに放り捨てておいたのに!」
彼をゴミか何かと思っているのだろうか。
「ちくしょう! こうなったら意地でもお前を死刑にする!」
「なんで!」
「お前は【スキル】を私利私欲のために乱用するばかりか、あまつさえ他の犯罪者の逃亡も許したんだ! 死刑以外にありえない!」
「だったら自分を死刑にした方が早いんじゃないか!?」
「うるさい! バカ! 早く連行されろ! ……うわーん、なんなんだよ~! もー! 早く連行されろよー! バカバカー!」
突然正座したままの僕の頭を喚きながらどつく女の子。こいつ、なんか情緒不安定だ。
「ええい、開けゴマー! 味噌ラーメン! 明太子!」
なにやら手をかざして彼女が唱えると、僕の眼前に何やら空間の裂け目めいたものが生まれた。ビルとビルの隙間みたいな、僅かな空間的ゆとりが、まるでその先に異なる空間が繋がっているとでも言わんばかりに、うよんうよんしている。『うよんうよん』とは効果音である。SE。サウンド・エフェクトだ。
『シーン』と同じやつである。
「ここに入れ! この先には断罪官が、お前を死刑にしたくてうずうずされていらっしゃるんだ! お前なんかけちょんけちょんなんだからな!」
けちょんけちょんなのか。嫌だなあ……。僕は別に、この世界の時間を止める能力を今まで悪用してきた覚えはないんだけどなあ。
「下手な真似はするなよ! この空間的亀裂の支配権は私にある! 私の気まぐれ次第で、お前の二の腕から先をスパッすることだって出来るんだからな!」
「スパッですか」
「そうだ! スパッだ! もっと言えば、私の匙加減次第ではお前の股間がドカンだ!」
「股間がドカン!? それだけはやめて!」
必死に懇願している僕だけれど、内心では、股間がドカンってなんだか良い語感だな、とか。そんなことを考えていた。
「ほら! 無駄口を叩いていないで、とっとと入れ!」
この物語が始まってからおよそ全編に渡って無駄口を叩き続けているのは他でもないあなたなんだよなあ。
そんな反論が口を突いて出る間もなく、僕は女の子に背中を蹴飛ばされ、何やらうよんうよんしている、彼女が言うところの空間的亀裂に入った。
とことん台詞を使って女の子のキャラを立てるという目論みを絶賛試行中です。頭の上に豆電球のマークが浮かんでは、それがそのまま作品に反映されてしまう、そんなノベルとなっております、はい。
これが行き当たりばったりなノベルなら、後先の事を考え順序立てて構成・執筆している同作者の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』というノベルがございます。その熱量といったらサウナ並みです。もし興味をお持ちになられたなら、こちらもよろしくお願いします。どちらかというと、こちらの方が僕の本命ですので。
この作品は気軽に、気ままに、思い立ったその日に更新できるようなスタイルですので、そこそこの時間をかけてしっかり書く『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』の宣伝は、この後書きスペースを利用してほぼ毎回入れたいなと思っております。お見苦しい告知が挿入されますが、ご理解のほどよろしくお願いします。
後書きスペースの中でも一番最後に告知を挟む形に統一しますので、宣伝とは別に何か後書きで今作について述べたいことがあれば、宣伝よりまずそれが皆さんの目に入るようになります。