ちゃんちゃらおかしい
どうも、abyss 零 です。タイトル通りの内容となります。
女の子は首を傾げて不思議そうな顔をしながら、黒野の喉仏を親指でごりごりした。黒野は苦しそうに『うぇっ』と喘いだ。
「私は【超律管理統制取締連盟】の特派調査員だ。この男が規律に違反したので連行しに来た」
「い、違反って……な、何かそいつが悪いことをしたんですか?」
「ああ。こいつは【スキル】を民間人に使用して不正に利益を得たんだ。これは【インゲニウム・ペルフェクトゥス法 第六条 第四項 一節】の重大な違反となる」
何を言っているのか分からなかったが、どうやら黒野が物凄く悪いことをしでかしたらしいことだけは理解できた。良かった。こいつのような奴のクラスメートをあと十ヶ月近く続けるのも、ぶっちゃけかなり嫌だと思っていた昨今である。彼がいなくなって悲しむ者はおるまい。
ところが、ここで一つ、疑問が生じた――ほとんど何を言っているのか聞き取れない彼女の台詞ではあったが、一言だけ、僕のような愚者でも分かりうる単語が登場した。
スキル……もし僕の予想が正しければ、それは『技術』や『特技』を意味する単語である。ゲームなどでも、キャラクターの使用する能力や技が、こう呼ばれることは少なくない。
だとしたら、僕は訊かなければならない。僕自身の潔白を証明するために。それは今後、僕がこれまでの僕と同じように生きる上で、とてもとても大切なことだ。
「……僕、今時間を止めてるんですけど、これはセーフなんですよね?」
女の子は数秒、僕を凝視したまま眼をぱちくりさせた。何を言っているのか分からないようだ。いや、それは僕の方こそそうなのだが。
すると直後。
「あー!」
女の子は周囲の停止したクラスメートたちを見回すと、僕を指差し叫ぶのだった。もう片方の手にも力が加わったのか、黒野は自身の首元を掴む彼女の手をぺしぺし叩いていた。顔色が芳しくないところを見ると、このままではあと数分もすれば死んでしまうのだろう。
女の子は、そんな黒野を煩わしそうに掃除用具入れのドアに放っぽると、今度は僕の元へ駆け寄った。僕はそれを、内心怯えつつも受けて立った。
僕も締め上げられるのかなあ。嫌だなあ。
「お前! 私を騙したな!」
「いいえ、何も騙してません」
「こんな大胆なことやらかしてタダで済むと思うなよ!」
あのまま何も言わずに黙ってやり過ごしていればタダで済んでいたであろうことは、おそらくこの場では言わない方が得策である。
「ふ、ふはははは! 覚悟しろ! お前も逮捕して【プリシオン】送りにしてやる! 知ってるか? あそこのご飯はめちゃくちゃ不味いんだぞ! 私も、ママの帰りが遅くなっちゃったから仕方なくあそこで夕食をご馳走してもらったことがあったけど、その日はママが帰って来るまで寝ずに待って、ママに『明日からは絶対に遅くならないでね!』って直談判したくらいなんだぞ!」
母親のことをママと呼ぶらしい女の子であった。可愛い。
「で、でも逮捕って令状が必要なんですよね? さっきみたいな……」
そんな不味いご飯を食べるのは嫌だなあ、という思いから出た苦し紛れの難癖であったのだが。
「れ、令状……? ば、馬鹿め。そんなの持ってるに決まってるだろ。私はお前のことも全てお見通しだったんだよ。見ていろ。お前も正座させて、すげえ声高に令状を読み上げてやる。されながら、自分の犯した罪を猛省するんだな!」
そう吐き捨てると、女の子は自身の懐をまさぐった。胸が揺れに揺れて、僕としてはもう黒野と一緒に死んでもいいような気分になった。そんなことを思いながら少し視線をずらすと、黒野も青い顔で女の子の痴態をまじまじと見つめていた。
見てんじゃねえよ。
「……あれ、あれれれれ……うそ……」
しばらくしていた彼女だったが、しかし僕への令状は見つからないようで、次第に独り言をぶつぶつ呟くようになった。『おかしいなあ』とか、『なんでだよお』とか、『もう~』とか、聞いていると悶えそうなくらいに可愛かった。
さっきから彼女への感想を『可愛い』くらいしか述べていないが、これは僕の表現力の問題ではない。
ただただ可愛い彼女のせいだ。
「…………」
やがて女の子は、ついに懐をまさぐるのを止め、身だしなみを整えると僕を睨んだ。顔を赤くし、頬を膨らませながら。
この調子だと、僕はあともう少ししたら『もっと睨んでほしい』とか言ってしまいそうだ。それだけは気持ち悪いので避けたいところではある。
「……特別権限を行使する!」
彼女は突如、僕をビシッと指差して宣言した。何やら事態は動き出したようだ。
「これよりお前を逮捕する!」
「えっ、な、何でですか? 僕には令状も何も――」
「私は令状がなくとも独断で罪を犯した疑いのあるクソ野郎を連行できる権限が与えられてるんだ!」
「それは罪を裁く権限じゃなくて冤罪を生む権限だろ!」
「ええい、黙れ黙れ! とにもかくにも、私はお前を逮捕する! すると言ったらする! 黙って正座しろ正座!」
「ええ……」
なんでこんな目に遭うんだろう。ちゃんちゃらおかしいわ。
言わせたかっただけです。
これが所謂ライトノベルであるならば、さながらヘヴィノベルとでも作者が称している『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品がございます。色々と考えております。興味をお持ちになられたならば、どうぞよろしくお願いします。
今日は一気に三本立てとなりましたが、あらすじにもあります通り更新は不定期です。気軽に、気ままに書いていきます。思い立ったその日に話を考えて書き抜きます。
基本的に執筆は先ほど触れた『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』が優先されますので、そこのところもご理解いただけたらと思います。




