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ワケ

ついに、転校生の真相が明かされる!

 結局、僕は放課後、ミカの学校を案内してほしいという依頼を渋々ながら承諾した。アキは涙ぐんだ眼で僕を睨み、ミカに対しては僕の想像していた現役女子高校生が発するとはとても思えないほどに凄まじい呪詛を吐いて帰ってしまった。

 悪い奴ではないんだけど……ちょっと、親の教育が悪かったのかもしれない。僕はそんな風にミカに弁明した――実際、アキが幼馴染みであるが故に僕と結婚しなければならないという、甚だ荒唐無稽な先入観を持つに至った原因は、彼女の二親なのだ。

 ともかく、僕はミカに学校を案内することとなった。


「――で、そろそろ聞かせてくれよ」

「ん? 何を?」

「どうして転校してきたんだ……わざわざ僕が通う学校に」


 僕は廊下を歩く途中、周囲に他の人影がないのを見計らうと、意を決して訊ねた。


「どうしてって、決まってるじゃん。私たち、相棒だよ? パートナーだよ? 聞いてるでしょ? 連盟の調査員は基本、二人一組のペアで行動するって」

「聞いてるよ。それが一体どういう――」


 すると、ミカは僕の腕に抱きついてきた。


「だって真と一緒にいたいんだもん!」


 弾むような調子で言うミカ。僕は内心、尋常ならざる鼓動の早鐘に戸惑いながらも、なんとか平静を保って言い返した。


「はぐらかすなよ」

「……ちぇ。本心なんだけどなー」


 ミカは頬を膨らませて離れた。


「……近頃、ここら一帯にブレイカーが潜伏しているとの通報があったんだ」

「なに!? ま、まさか黒野の仲間とかじゃ――」

「ううん、違う。あいつとは完全に別件。二人とも、他のブレイカーと関わりを持つようなことはなかったから」

「じゃあ、一体……?」

「こことは別のOOAから逃げてきたブレイカーよ」

「なんだって!?」


 驚愕していると、ミカは鞄から一枚の紙を僕に手渡した。どうやら手配書のようだ。中央には大柄で筋骨粒々な強面の男性の顔写真があった。


「アルバンデュラ・カシャス・ノーゼンベルグ――その屈強な肉体で数々の誘拐事件を起こしてきた凶悪なブレイカー。スキルは『パワフル・パーティクル』。肉体強化よ。ユーザーとなる以前からプロの格闘家として鍛練を重ねていた奴にとって、長所をより特化させるピッタリなスキルなの。生来、鍛え上げてきた肉体と、それを更に増強させるスキル。手強い組み合わせだわ」

「犯行の手口は?」

「十代半ばのか弱い少女を誘拐し、気絶させた少女と一緒にベッドで眠るという下劣な変態よ。一晩眠った後は、その少女を無傷で解放するというルールを守っているわ」

「どういうことだ……?」

「一度、連盟は奴を逮捕して取り調べたことがあるの」

「え? じゃあ逃げたのか?」

「移送されたのよ。精神に異常をきたしていると医師が診断して、その手の病院に移されたわ。その分の減刑はされて、服役と同時に治療を受けていたみたいなんだけど……」

「だけど……?」

「自分の担当医を十代半ばの少女――真のOOAで言うところの中卒ないしは高卒の少女にしろと要求したの。要求が飲まれないなら治療は受けないって」

「そ……それで……?」

「精神に異常をきたしたブレイカーを放置しておくことは【インゲニウム・ペルフェクトゥス法】の違反になるから、連盟としてはやむを得ず、まだ研修医だったある少女を彼の担当医にしたの」

「そ、そんなの危険だ!」

「ええ、まったくよ……ある日、アルバンデュラは担当医の少女に襲いかかり気絶させた。当然すぐに警備員が駆けつけたけど、奴は少女の首元を腕で抱きながら、病室のベッドに横たわると言ったの――『これから彼女と眠る。もし朝までに誰かがこの部屋に入るようなことがあれば、彼女の首の骨をへし折る。この病院の起床時間になったら起こせ。その時、まだ彼女が俺の隣で寝ていたら、彼女は無傷で解放する』――とね」

「なっ……なんて酷い……」

「そう……警備員は手も足も出せなかった。結局朝まで待って、少女は解放された。同時にアルバンデュラも逃走してしまったけれど――」

「……さっき言った取り調べに対しては、なんて言ってたんだ?」

「……連盟が最も疑問に思ったのは、犯行から窺えるアルバンデュラの理念よ。誘拐した少女を傷つけず、気絶させて一緒に眠るという行動から、奴の心理を紐解き、ひいてはブレイカーとなるユーザーの特徴を分析しようと連盟は考えたの。今後のブレイカーの取り締まりに役立つデータを得ようとしたわけ」

「なんか……企業的だな……」

「それが組織よ――良くも悪くもね――アルバンデュラは言ったそうよ。『生きて帰された少女は、事件を通して苦痛と恐怖に苛まれる。この体験が起因となって、家族共々、生涯に渡って地獄を見る様を想像すると堪らなく興奮する。たまにかつて誘拐した少女の自宅の様子を窺うと、高確率で少女が自分に対し、何故あの時殺してくれなかったのと悲鳴をあげている。その瞬間は最高に恍惚としてしまう』……被害に遭った少女にトラウマを植えつけ、あえて生かすことでそのトラウマに悩み苦しむ少女たちを生み出そうという目論見があったの」

「……外道め……」


 僕は憎しみのあまり拳を握った――その時、僕の右耳に何やら微弱な振動が伝わった。少しこそばゆいその振動は、どうやら耳の中から発せられている。


「噂をすれば、よ! ブレイカーが現れたわ!」


 ミカが僕の肩を叩く。『事件が起こったら、すぐに分かるようになってるから』――なるほど、こういうことか。

 僕は廊下を駆け出したミカの後を追う。窓から夕焼けに照らされた美しい町を眺め、どこかに犯罪者の影が潜んでいないか目を凝らした。

 すると、僕のポケットでスマートフォンが鳴った。アキからのLINEだ。どうしたのだろう。僕は画面をタッチして、アキのメッセージを見た。


『たすけて』


 たった四文字のメッセージだが、僕は全てを悟った。

1000文字くらいでフラグを立ててから回収するまでやってのけた感があります。スピーディーですね。


また本作とは別に作者が描く、フラグを立ててから回収まで、真相の追究から解明までを堅実かつ丹念にこなしていく『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』作品があります。こちらの方も興味がおありでしたら、よろしくお願いします。

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