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ミカ……さん?

アキ編の第2話。皆さんが飽きない小説を目指して頑張るのです。


アキだけに。

 転校生は美少女――アンリアルでフィクショナルなイベントに直面し、教室は男女を問わず騒然とする。


「やべえ……あのめっちゃ可愛いじゃん!」

「B……あいやCかな?」

「彼氏いんのかなあ……付き合いてえ……」

「俺、放課後とか言わずに一時限目が始まる前に告るわ」

「お前バカじゃねえの?」

「殺されたい! 彼女に性的な視線を送ってるのがバレて嬲り殺されたい!」

「えぇ……」


 男子は声を潜めて何やら語らい。


「やだ、超かわいい! お人形さんみたい!」

「ねえねえ! あの娘A型っぽくない? A型っぽくない?」

「まあ、大抵の日本人はA型だからね」

「かわいい! かわいいかわいい! かわいい! 私の妹の次にかわいい!」

「いいとこのお嬢様かなぁ……『たたたずまい』が『おろそか』な感じがする!」

「分かったからアンタは黙りなさい。転校生ちゃんが初日にして救いようのないアホを発見しちゃうわ」

「彼氏いるのかなあ……『彼女』は大丈夫かなあ……」


 女子は潜みきっていない声で語らい。


「えー、じゃあね。黒板に名前書いて、二言三言でいいから自己紹介して。ろくでもないクソガキばっかだから、名前以外の個人情報を教えたくないなら、名乗って終わりでいいから」


 そんな中、担任が気だるそうにミカに言った。ミカは平静を装ってはいるが、僅かながら隠しきれない動揺が表れていた (当然だ) 。

 ミカは黒板に自分の名前を書くと、クラスメート全員を見渡すようにした。


「初めまして。立木 美日 です。趣味は火遊びです。気軽に『ミカちゃん』って呼んでくれると嬉しいです。中途半端な時期ですが、どうぞ仲良くしてやってください」


 礼儀作法のきちんとした女の子だった。誰だ彼女。僕の知っている彼女と少し違う気がする。彼女はもっと口が悪くて、意地悪で、悪質で、険悪な感じの、要は凄い悪っぽい女の子だったはずだ。

 どうした、ミカ。君はもう少し、上から目線になったっていいんだよ。


「はい、じゃあ空いてる席に座ってー。あ、両隣は女の子がいいでしょ。そのように手配するから」

「あ、いや、大丈夫ですよ。殿方のお隣でも」


 ミカの上品な物腰はどうやら演技らしく、早くも底の浅さが露見されつつあるように思われた。

 結局、ミカは四方はおろか八方を同性に囲まれる席に配された。

 朝のホームルームが終わると、教室内のほぼ全員がミカの机の周りに群がった。


「ねえ! ミカちゃん! スリーサイズいくつ!?」

「ウチとライン交換しよ! ミカちゃんプロ画どんなん?」

「立木さん彼氏いる? 付き合ってください!」

「どこ住み? 近く? 引っ越して来たの?」

「彼氏いてもいいから! 俺と浮気しよ? 俺と一大スペクタクルしよ?」

「ミカちゃんA型? A型なの?」

「立木さん、よければ僕が学校を案内するよ。放課後にでもどう? このクラスには野蛮な猿しかいないから……」

「ミ、ミカちゃん! ミカちゃん、女の子との恋愛ってオーケーかな? わ、私の『彼女』になってくれたら嬉しいな、なんて……」


 男女が入り乱れ、様々な言葉が転校生少女にかけられた――僕のクラスメート、ちょっと個性強すぎじゃね? こんなろくでもない連中の中に半年ほど紛れておいて、その本性に気づきもせず自分が神だの特別だののたまってたのか、僕。今にして思えば片腹痛いわ、こりゃ。

 このクラスにおいては、甚だ平凡な僕らしかった。


「……おほん」


 すると、ミカはわざとらしい咳払いをした。同時に、それまで喧騒を撒き散らしていたクラスメートたちが一斉に黙り、彼女の次の行動を待った。

 ミカは立ち上がって、周囲に群がる一人一人を見回した。


「スリーサイズは教えない。これ以上問うならセクハラで起訴するわ。ラインって何? 線? 線を交換するの? どこの線? 環状線? リンパ腺? 秋保温泉? プロ画って何? プロの画? 何? 私は私の知らぬ間にプロの画家になったの? 彼氏はいないし付き合わない。どこに住んでるかも教えない。というより教えられない。セクハラではないけど、今度はプライバシーの侵害よ。これも下手をすれば告訴ものね。彼氏はだからいない。浮気もしないし、一大スペクタクルもしない。私には心に決めた人がいるから。あなたはもっと清純な異性間交遊をすべきだわ。恥を知りなさい。血液型はA型よ。何? あなた私を監視してるの? あるいは尾行? それとも盗聴? ストーカーなの? 怖いわ」


 呼吸している間もなかったであろう口早に、ミカは言った。クラスメートは唖然としている。彼女は一息で、自分に対する質問の概ねに解答したのだ。

 そして今、意味ありげに、ようやっと息を吸うのだった。まるで次の質問に対する解答に、何か彼女が特別な意味を含ませているかのようだ。


「――学校案内は、いいわ。もう先約があるの」


 数秒して、先ほどミカの案内役を買って出たキザそうな男が奇声をあげて走り去った。彼の甲高い悲鳴は廊下に木霊し、今日中にこのクラスの一人に何かが起こったという噂が跋扈することだろう。

 ていうか、ミカ、もうこの学校で友達を作ったのかなあ? 先約があるって言っていたけれど。


「あ、それから私は生憎と同姓を恋愛の対象として見れない人間なの……だから、ごめんね」


 ピシャッと言い放つミカ。一方で、彼女に告白した女生徒は呆然自失としている。ミカの台詞に、全く着いていけてない様子が窺える。

 僕もそうだ。どうしたんだ、ミカ……前まで無愛想は無愛想はでも、ちゃんと愛のある無愛想だったろう (?) 。


「私は基本、あなたたちと仲良くする気はないわ。勝手にクラスメートになって、勝手に勉強して、勝手に進級するだけの間柄よ。だけど、それでも一応は一生に一度、巡り会えた奇跡を謳歌しなくちゃね。『仲良く』しましょう。あと半年間、よろしくね」


 誰だこいつ。

アキ編と題しながら、今回、アキが登場しませんでした。でも、これ実は前書きで触れました、皆さんが飽きない小説を作るというスタンスを表した、いわば作者の挑戦的な試みだったわけです (嘘) 。アキがいない→飽きない と、そんな具合です。

こんな感じで口から出任せばかり宣ってたら、いつか僕は僕のことが嫌いになってしまうかもしれませんね。


さて、こんなつまらないダジャレを披露しなくとも十二分に皆さんを楽しませんという意欲がプッシュされております、同作者の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品がございます。前回、宣伝し忘れたやつです。こちらにはアキがそもそも全編に渡って登場しないので、皆さんを飽きさせない、楽しませたいという作者の意図は、より顕著に表れていることかと我ながら存じます。

アキ云々はさておき。真面目に書いております、『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』の方も、興味がおありでしたらどうぞ。


次回はアキちゃん出ますよ、ちゃんと。

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