謎の転校生!?
どうも、今回から『アキ編』スタートです。
ミカと知り合い、ブレイカーを取り締まる役職に就いてから数日後。僕は今まで通りの平穏な日々を過ごしていた。黒野を捕らえ、アリシアさんに事の顛末を報告した帰り際に、僕は右耳に『何か』を入れられた。
「事件が起きたら、すぐ分かるようになってるから」
手探りで調べても見つけられないソレは、ミカ曰く、そういう代物らしい。あれ以来、特に異変がないところを考えると、平穏無事な生活がAOA全土で問題なく営まれているか、もしくは事件が起きたとしても、僕やミカに依頼がされないということだろう。
ともあれ、僕は人知を超えた存在との戦いに加わることとなったのたが、それにしては至って平凡な生活を送れていた。いつも通り、僕は教室の自分の席に着く。
「真くーん!」
すると、教室の扉からひょこっと顔を出し、僕の名前を呼ぶ少女がいた――幼馴染みの古間 亜貴である。
アキは僕を見つけると嬉々として駆け寄った。
「真くん! 聞いたよ? 試験中に学校抜け出して悪さしたって」
「ああ……いや、だからあれは――」
表向きはそういうことになっていた。ミカと黒野を捜索する過程でここへ戻ってきた時、僕が自らそんな具合に話をでっち上げ、事を大きくしないよう図ったのだ。
しかし、事は大きくこそならなかったが、かといって小さいまま済むこともなかった。僕は後日反省文を書かされ、加えて次回の試験での得点を結果に関わらずトータル五十点分差し引かれるというオマケまでついた。
黒野の方は、そもそもプリシオンに収監されるにあたり、今まで関わった全ての人々の記憶から存在を抹消されたため、当然、反省文を書く義務などない (ズルい) 。
「まっ、別にいいんだけどね?」
険しい面持ちを、アキはすぐに崩してケロッと言った。なんだよ。別にいいなら怒るなよ。怖いじゃないか。アキは昔から怒ると、それはそれは恐ろしい女の子なのだ。鬼か悪魔か、何かしらが乗り移ったのかと錯覚するくらい、怖い。まあ、その分めったなことでは彼女の逆鱗には触れないのだけれど。
僕はホッと溜め息を小さく吐いて、教室へ来る途中、自動販売機で買った缶ジュースを口に含んだ。
「そんなことより真くん。私たちいつ子供作るの?」
僕はジュースを吹き出した。アキはそれを汚そうに避け、また僕の痴態を目撃したり、それ以前にアキの突拍子もない発言を聞いた有象無象のクラスメートたちは、一斉にこちらを見た。
「なっ、なに言ってんだよアキ! そんなこと白昼堂々言うなよ! いや、白昼だろうが暗夜だろうが言うなよ!」
僕は周囲の目を気にし、小さな声で怒鳴った。だが一方で、アキは至って平然としている。『なんでそんな大仰なリアクションするの? 意味わかんない』とか、下手をすれば言いそうである。
「だって私たち幼馴染みでしょ?」
「だからなんだよ!」
「だからだよ」
「僕は清涼飲料水の話をしてるんじゃないんだよ!」
「私も商品名を言ったつもりはないけど」
「えぇ……」
その時、僕は思い出した――彼女は、アキはそういうことを平気で言う女の子なのだ。昔から。物心ついた時から、その兆候はあったように思われる。
原因は分かっている。アキは幼馴染みという間柄が『添い遂げるもの』という固定観念を持っているのだ。そう、思い込んでいる。
僕と幼馴染みである以上、将来は僕と付き合い、僕と結婚し、僕と子供を作り、僕と孫の面倒を見、僕の死を看取らなければならない。それが社会の定めた常識だと誤解しているのだ。
幼い頃、どういう経緯があってのことかは知る由もないが、そういう思考が芽生え、それが自分の意思に関わらず辿る運命の道であると信じて疑わず、そのまま成長してしまったのだ。
この誤解を解消しなければ――彼女は自分の青春を棒に振ってしまう。自分のやりたいこと、したい恋が出来ないまま、一生、僕に縛られる人生を送ってしまう。
僕には、アキを救う責任があるのだ……幼馴染みとして。
「……アキ。僕、実は話が――」
「おーい、座れクソガキ共ー。先生様を煩わせるなー。内申下げるぞー」
いよいよ切り出そうとした瞬間。僕のクラスの担任教師が入ってきた。アキは名残惜しそうな顔をしながらも、『じゃ、後でね』と言って自分の席へ向かってしまった。
――また、機を逃してしまった。
「今日は転校生が来てます。可愛い可愛い美少女だぞ。俺が高校生だったら今日の放課後には口説いてるな。さあ、入って、どうぞ」
担任が招き入れた転校生――彼女はミカだった。
ミカはツンデレ、アキはヤンデレという立ち位置にしちゃおうかなと画策しております。両方ともデレるんですよねぇ~。両手に花とは、もしかしたらこのことを指すのかもしれません。
真くんには一刻も早く酷い目に遭ってほしいです。