第9話
「…はぁ、昨日は大変だった」
なんだったんだいったい。
あの後、綱引きならぬ俺引きを終えた二人は、まず俺を遊びに誘うことから始まり、次に食事の時に一昨日と同じくルシがおそらく遊び半分でまたあーんをやろうとしたらまさかのベルの飛び入り参加。さすがの俺も現実で面識のあり、わが校のアイドルからのあーんを受け入れる勇気はなくしばらく固まることとなった。…ていうか顔真っ赤にしてまでやらなくていいのに。あれ絶対ルシがなんか罰ゲームでも仕掛けたな。あの後「私もやるー!」とヒナが登場してくれなかったらどうなっていたことか…。
そして極めつけは就寝の時。まさかのベルさんが「一緒の布団で…ね、ねませんか?!」と爆発するのではないかと思うほど顔を真っ赤にしながら言ってきた。これには普段温厚な俺もさすがに激怒。すぐさまルシのテントへ乗り込みいい加減にしろと説教をくれてやった。何の罰ゲームかは知らないが限度がある。そしてテントに戻った俺を迎えたのは…
『そっか…ラビ君はそっちを選ぶんだ』
と、何やらハイライトを消し去った眼を携えたベルだった。
そこから何が何やらわからないまま誤解?をなんとか解いて就寝。そして今に至るということだ。
ほんと、なにを勘違いしたのだろうか。原因がわからないまま誤解を解くのはほんとわけのわからない作業だった。
そして俺はそこから学んだ。
ベルとルシを二人きりにしてはいけないと!
…ということで現在、俺とサイカの二人で探索中です。
え?そこは二人のうちどちらかと一緒に行動するんじゃないのかって?
いや…だって拠点守るためには誰かを置かなきゃいけないけど、戦闘できるといっても低レベルのサイカやヒナを置いても危ないだけだろ?んでルシはレベルが高いけどもともと戦闘職じゃないから探索にも向かない。なので俺が拠点にすぐ戻れるように《召喚》が使えるベルにはいてもらったほうがいい。まぁ全員で行動するという案もあるがそれをするにはまだ周囲の探索が足りなくてな。
と、いうわけであの二人の間にいつも元気なヒナを配置すれば何も起こらないのではないかという俺の計画だ!
…でもなんか出発前にベルとルシが、
『えっ…ラビ君まさかサイカを…』
『うーん、それは予想外だなぁ』
とかいってたけど、あれはなんだったんだろ?
気になったのでちょっとサイカに聞いてみることにした。
「…ということであれ、なんだったと思う?」
「…それ、本気で言ってるんですか?」
あれ?なんか予想外の返しされた。え?うそやん。俺の計画になんか間違いでもあった?
「いえ、あの二人にヒナを当てるのはいい考えだと思います」
「だよなっ!」
計画については称賛してもらった。おけーおけー。
だがサイカは続ける。
「ただ…」
「ただ?」
「…いえ、なんでもありません。それより先に進みましょう」
「お、おう」
何かを言いかけたが、途中でやめてしまい、先に進んでいくサイカ…なんだったんだ?
ーーーサイカーーー
まったく、なんなんだろうこの人は。
私は後ろをついてくる全身真っ黒のうさみみ男のことを考えた。
初めて会ったとき、この人はトラブルに巻き込まれた…というか招いた姉さんを助けてくれた。
そしてそのままALOを始めて間もない私たちを手伝ってくれた。ここで私は彼のことをお人よしと認識した。
そしてその次の日、彼は姉さんとクラスメイトで、姉さんの思い人であることが分かった。
そしてそのすぐあと、彼は姉さんのペットになった。…何を言ってるのかわからないと思うけど事実です。
そしてそれからも彼は私たち3人を何度も手伝い、助けてくれた。効率のいいモンスターの狩り方や安全な倒し方、果ては新しい装備まで買ってくれた。
ここまでで私は彼を頼りになる人だと認識している。
そして今回の初イベント、この人は上位のプレイヤーであるにもかかわらず持ち前のお人よしスキルを活用してまだまだ初心者の私たちと一緒に参加してくれた。
この人のおかげで私たちはイベント開始直後のあの行列を避け、さらに今回のテーマであるキャンプで理想の拠点を見つけてくれた。やはり彼は頼りになる。
そして現在、私と彼は二人きりで探索中です。
理由は姉さんのこと。なぜか昨日、探索から帰ってくると姉さんが彼に抱きついたりして誘惑?していたからである。
昨夜姉さんにあの暴走についての理由を聞いたところ、私たちに防具を作ってくれたルシという人が、姉さんと同じく彼のことを好きだといったとのこと。どうやら恋のライバルが出てきて突如彼にアタックしだしたのを見て焦ったとのこと。
それで彼はそれをどうとったのか、ルシさんと姉さんを二人きりにさせてはまずいと、昨日は同行していたヒナを残してきた。そして私を連れていく理由は一緒に近距離で戦ってる方が守りやすいとのこと。
姉さんやルシさんは彼が二人ではなく私を選んだといっていた。私もないとは思っていたが先ほどのことで確信した。
彼はいわゆる朴念仁だ。鈍感だ。そんな彼がこういった理由で選出をするわけがない。
と、いうことで私の彼に対する認識をまとめると…『鈍感で朴念仁でお人好しで頼りになる人』である。
…ほんとなんなんだろうこのひとは…
「サイカさんストップ」
再び考えようとしたら、その彼に呼び止められた。
ーーーラビーーー
「サイカさんストップ」
「え?」
俺は前を歩いているサイカを呼び止めた。
理由は…
「《探索》に反応があった。この先になんかいる」
そう、常時発動のスキルに反応があったからだ。さすがにそれだとさきさき前に進めさせるわけにはいかない。
「俺が先にいくから、ついてきて」
「はい」
サイカにそう言って先行する。
そして反応の源までいくと…
「あぁ…いたいた。よっす」
「げへへ」
何やら下種な笑みを浮かべる男と、気楽に挨拶をする男がいた。どうやらプレイヤーのようだ。
そして気軽に挨拶したほうの奴がこういった。
「おたくらを殺りにきたPKです。どうぞよろしく殺し合ってください」
…うっわ、面倒ごとの予感。
アオイです。
いやー、大学のテストっていいですね。早く終われば先に帰ってもいいんですから。
自慢じゃありませんが、私がテストを終えて帰るのは早いですよ。
なぜなら問題解き終わって見直すほど自信のある問題が少ないんです!なにせほとんど勘でといてるんですからねはっはっは!
…アカン(顔覆い)