勇者、希望を抱く
ぼんやりとしていた意識がはっきりとしてくる。
そして、はっきりとわかる。
俺は勇者の儀の洗礼を受けたのだ。
天井のステンドグラスから注がれる、粉雪のように降り注ぐ光のカケラ。
木漏れ日のように暖かく俺を包んでくれる。
今まで毒でしかない聖音系の魔法も今なら受け入れる事が可能だと確信する。
「おお…、アキラ様の時と一緒ですじゃ…。」
ヴェヒラムが口を開く。
「クロム様はこれで正式に勇者として【神】に認められた存在となりました。」
ヴェヒラムが両手を広げ、そして祈りの格好をする。
「なんか、あっけなかったわね…、よくわからなくて凄かったけど。」
水を差すように言うサーシャ。
「何かクロムがぼーっと突っ立った瞬間ビクッと動いただけのようなんだが…?」
疑問を口にするアーシェ。
そうか、俺にとっては数分だが今のは皆にとっては一瞬の出来事だったのか。
普段なら考えないような事も考えられる。
これが勇者になった恩恵でもあるのか…?
「フッフッフー!サーシャさんやアーシェさんにはわからなかったでしょうが勇者さんは今、光の加護がついててなんというか神々しい!?みたいになってるんですよー!」
ハーフエルフのリリスが無い胸を張ってえっへんと言わんばかりに言う。
その言葉は何か少し痛い。
今までは闇の力を酷使してきた俺だが今までの力にプラス要素として
光の力が使えるようになった…気がする。
リリスに注目していたら【くいくいっ】と急に袖を引っ張られる。
それに気づき視線を下に向ける。
視線の先でユフィアがこっちを心配するような顔をしていた。
「大丈夫だ、光の加護があったって俺は俺だ。」
そう言うと俺はユフィアの頭をそっと撫でてやる。
やはり、禁呪を使って体を冷凍保存の状態にしてあるのでその頭は冷たい。
俺のその言葉を聞いてアンジュも
困惑していた顔だったが少し気が抜けたようだ。
ここで俺はハッと気づく。
そういえば、ここは修道院だ。
もしかしたら俺のせいで死んでしまい、今グールとして動いているだけの存在であるユフィアを生き返らせる事が出来るかもしれない。
かすかな希望を持ち、
俺は僧としては最高峰だと思われるヴェヒラムに問いかける。
自分の罪を清算する為に…。




