勇者、更に仲間を増やす
「魔族にそんな奴はいない!!!」
叫んだ後にしまった!と思う俺。
「貴様、魔族に加担する者か…?」
アーシェ鋭い目つきで俺を睨んだ。
「え、いや、そのー…。」
なんとか誤魔化そうとする俺。どうするよ俺。
「魔族にいい知り合いがいて思わず叫んだだけだよ、ははは…」
なんとか笑って誤魔化す。これでなんとかなってくれればいいのだが。
「ふむ、まぁ魔族全てが悪い訳ではないからな、いいだろう。」
ふんっと鼻をならし俺から視線を背けるアーシェ。
ふううう、助かった…。
ここでまた疑いがかけられたらややこしい事になっていたと思う。
「ねえ、それじゃさっそくその仕事に行こうよ!」
サーシャがまたまた場の雰囲気を読んでか読まずか口にする。
相変わらずセッカチなお姫様だ。
「まぁいいだろう、私も今起きたところだし行くとするか。」
アーシェが頭をボリボリかきながら二階へと上っていく。
ちょっとまて急展開過ぎないか…。
「あ、私も着替え手伝うよー!」
とサーシャはアーシェを追いかけて二階に上がっていった。
小半刻ほど過ぎ、俺はギルドのテーブルで
視線をジロジロ浴びせられながら二人が来るのを待っていた。
「お待たせ!」
サーシャの声に振り返ると甲冑を着込んだアーシェとサーシャがそこにいた。
てっきり短剣を使ってたものだから短剣使いかと思ったが
アーシェの武器はそうではなくショートソードだった。
「で、その悪い魔族がいる場所ってどこなんだよ?」
単刀直入に俺が聞く。
「…ここから一刻ほど南に向かったところだ。」
「そこに奴らの拠点がある。」
つまり、いきなり拠点に突撃してとっ捕まえて来いって事か。
「あー、アーシェ様…。」
ギルドの係員がアーシェに向かって言う。
「くれぐれも無茶しないでください、相手は街一個規模の大きさなのですから」
なんかとんでもない事言ってくれたぞ、この係員。
街一個分だって?完全に拠点というか住処じゃねえか。
「ああ、大丈夫だ。今回は仲間もいる。」
こんな台詞を聞いて確信した。
コイツ今までずっとこの仕事を一人で続けていたのか、と。
「私達結構強いから大丈夫だよ!」
また空気を読まないサーシャが言う。
お前は少し黙ってろと言いたいが言うに言えない。
ちょっと待てよ、普通パーティってのは構成とか
そういうの大事にしないといけないんじゃないのか?
今の構成だと剣士x3だぞ。まぁ俺は魔法も使えるが。
そう思い俺はアーシェに提案するが
「大丈夫だ、問題ない。」の一言で一蹴されてしまう。
正直不安になってきた。
そこでちっこい少女が話に割り込んできた。
「あの…、回復魔法専門でしたらあたし使えますけど…。」
控えめな口調で少女が言う。
「あのな、嬢ちゃん。今から戦争しに行くところに子供は連れて行くわけにはいかないんだよ。」
正直足でまといになりかねんがそこまで言うつもりはなかった。
「あたし子供じゃありません!これでももう20年生きてます!」
あぁ、もしかして…
「お前ハーフエルフか?」
エルフは人間の寿命の4倍は生きる。
魔族に至ってはおよそ、人間の10倍だ。
そしてハーフの場合はだいたいその半分を引き継ぐ訳だが…。
赤いフードで隠れていた耳をピョコンと出してやると先端が尖ってる。
やはり、そうか…。
「…ええ、何か問題でもありますか?」
不満そうにハーフエルフが俺に答える。
「いいや、回復魔法は頼もしい。ところで聞くが…」
「お前さんの魔法は聖音系か?精霊系か?」
回復魔法にも色々な種類がある。
大きく分けて二つだ。
【聖音系】と【精霊系】
聖音系は魔族である者には回復魔法をかけたつもりが攻撃魔法になってしまう。
精霊系は精霊から力を借りているので魔族でも関係なく回復してくれる。
聖音系だった場合、俺にとっては毒となりかねんので
話を無かったことにしなければならない。
「あたしは加護を受けた身ではないので精霊系しか使えないのです。」
しょげている少女。
「よし、雇った!」
寧ろ、精霊系じゃないと俺が困る。割とまじで。
にぱーっと笑って「やったー!」と喜ぶ少女。
いや、少女じゃないんだが少女に見えてしまうのが事実。
「名前はリリスと言います。よろしくおねがいします!」
うんうん、これもこれでなかなか可愛いなっと脱線する俺。
「…じゃ、行くとするか」
ぼそっとアーシェが口にする。
「ようやく出発ね!」
セッカチな姫、サーシャも言う。
「頑張ってお役に立ちます!」
と張り切っているリリス。
こうして4人は南にある奴隷商人達の拠点へと向かった。