アキラ、人と触れ合う
「う、うーん…。」
僕は夢を見ていた。
そう何か訳のわからないまま勇者になって来いっと
変な爺さんから言われた夢だ。
目が覚めればまたいつもの生活。
大学へ行って友達と遊んで…。
そういえば来週までに課題を提出しないといけないんだったよな…。
まぁ起きてからまた考えよう。
僕はそう思い寝返りをうつ。
痛っ…。
何か全身筋肉痛みたいな感じだ。
きのう何か激しい運動なんかしたっけ?
それに何か体が軽い違和感がある。
まぁいいや…、眠ろう…。
「×××…。」
なんだ?なんか声が聞こえるな…。
「×××××…!」
あー、もう五月蝿いな。もうちょっと寝かしてくれても…。
【バッ!】
かかっていた毛布を押しのけて僕は咄嗟に上半身を起こす。
…やっぱ夢じゃなかったんだ。
自分に都合のいいように夢にしようとしていた。
だけど選んだのは自分自身だ。
「…×××××、×××?」
隣で金髪の女の子が俺の顔色を伺うように何かを言っている。
見た目からしたら僕とあまり歳は変わらなそうだけど
う、む…?
どこの言葉だ?
僕は大学で西洋学を学んでいるので
多少の英語やスペイン語くらいなら理解できるが、しかし。
これは聞いたことのない言語だ。
しかも、何を言っているか聞き取れない。
ううむ、困ったぞ…。
そこで僕は爺さんから与えられた情報を頭の中で再度整理する。
む、これか!?
【テラにおける語学】
今の僕の頭の中は簡単に例えるとふたつに分けられたような状態である。
今までの僕の記憶。
そして爺さんから叩き込まれた大容量の情報。
頭の中でこのふたつがごちゃごちゃになってたけど少しずつ整理していって
僕は自分の頭の中に記憶の部屋がふたつある事に気づいた。
そして、その【テラにおける語学】を当てはめていくと…。
「どこか痛みますか?大丈夫ですか?」
そのような答えになる訳だ。
えーと、多分カタコトになるけどちゃんと言葉を返さないと…。
そう、思って言葉を選んでいるうちに自然と言葉が頭に浮かぶ。
あれ?これって…。
もしかしてふたつあった記憶の部屋がひとつになりかけてるって事かな?
まぁいい…、今考えるのはそんな事じゃない。
金髪の女性を見て僕は素直に答える事にした。
「大丈夫、ありがとう。」
ニッコリと微笑み金髪の女性に礼を言う。
「よかった~…、貴方が倒れてた所は何か大きな物が降ってきたような跡になってたのよ。」
金髪の女性が僕を案ずるように言う。
あー…、あれか。
やっぱり僕は空から降ってきたんだな…。
という事はここはテラ?
「えっと、ここはどこですか?僕ちょっと記憶を失ってて…。」
ちょっと嘘をついた感じになったけど場所を聞くにはこうした方が効率がいい。
「ここはランバスタという港町よ、貴方記憶を失ったってどういう事?」
金髪の女性は素直に答えてくれたがやっぱり記憶喪失はおかしかったか…?
「いや、ちょっと記憶が曖昧で…。あ、そういえば自己紹介まだでしたね!」
僕は話題をそらすため自己紹介を始める。
「僕の名前は東城晃と言います。」
僕が自己紹介を終えると金髪の女性も自己紹介をしてくれる。
「トージョーアキラ?変な名前ね。私はマーレよ。よろしくね!」
マーレ名乗るとスカートの裾を掴み、過去の西洋帰属のような立ち振る舞いをした。
これがこの世界における女性の作法か。
なんて、納得してたらマーレが言う。
「それより、トージョーアキラが目覚めたのならお医者様を呼んでこなくっちゃ!」
マーレは振り返りドアをあけて出て行ってしまう。
トージョーアキラって棒読みだけどなんかな…。
今度から名乗る時は名前だけにしようかなっと思う僕であった。
暫くしてマーレが医者を連れてきて部屋に入る。
「トージョーアキラ、お医者様を呼んできたわ。」
そう言うとマーレの背後からよぼよぼの爺さんがトコトコと入ってくる。
「…、アキラでいい。東城をつけると長いだろ。」
あまりの棒読み具合に僕は話の腰を折ってまでマーレに伝えた。
「?わかったわ、アキラ!」
少し不思議な表情をしていたがマーレもそれに了承してくれた。
医者に体をジロジロ見られ診察では軽い打撲と脳震盪による記憶喪失という診断がなされた。
まぁあんな空から降ってきてよく軽い打撲で済んだよな…。
それからマーレの家族を紹介され、食事が振舞われた。
なんか、こういうのは久々だ。
いつも両親は共働きで僕には兄弟なんていないから
家でご飯を食べる時は大抵独りだった。
だから、なんかこう新鮮なんだな…。
マーレのお父さんはここで魚を取る仕事をしているらしい。
マーレのお母さんはここで絹糸を折る仕事をしているらしい。
マーレの兄弟は年の離れた弟と妹がいてマーレはいつも手を焼いているらしい。
ああ、やっぱりいいなぁこういうの…。
話を聞いているだけでも暖かくなるようなそんな感じだった。
マーレのお父さんから少しアルコールのはいった飲料、
この世界ではユールというビールに炭酸の入っていないようなものを飲ませて貰ったけどキンキンに冷えてておいしかった。
いい気持ちになって夕食の礼をいい、そのままベッドに入る僕。
そして、そのまま寝てしまう。
…夢の中で声がする。
「…者よ…。」
なんだよ、いい気持ちなんだから寝かせてくれよ…。
「…勇者よ…。」
あー、もうなんだよ!?
「…洗礼を…勇者の儀式を執り行うのです。」
また謎の女性の声がした。
おい、いったいアンタは誰なんだ!?
夢の中で声を上げる。
だけど、その答えは帰ってこない。
そして僕は深い眠りに就いた。
翌日、あの夢の内容が頭から離れない。
洗礼ってなんだ?勇者の儀式がどうとかって…。
これは調べるしかないな、と僕は思った。
だって、僕がここに来た意味は勇者として魔王を倒さないといけないのだから。




