勇者、選択しない
「俺は…。」
暗闇を照らす精霊達を見ながら俺はアキラに言う。
「今は選べない。俺は勇者か魔王のどちらかなんて選べない。」
長い長い静寂の間、アキラを待たせてしまった時間。
その時間で俺が今言える答えはこれだけだ。
「今は…、という事ですか?」
アキラは再度俺に問いかける。
「そうだ、今は選べない。」
俺はアキラの瞳を真っ直ぐ見て答える。
「…理由を聞いても宜しいですか?」
不満そうな声ではないがアキラは理由を知りたがる。
「俺は今、勇者側でも魔王側でも大切な者達が出来てしまった。」
「今、勇者か魔王を選択するとどちらか片方を裏切らなければならない。」
「だから俺はあえて今、選択はしない。」
考えついた結果を俺はアキラに告げる。
「…、その中途半端さがいつか命取りになりますよ。」
アキラが俺に忠告するように言う。
確かにその通りだ。
今の俺は中途半端だ。
勇者にもなりきれずましてや魔王なんて形だけの者。
親父から跡を継いだだけに過ぎない。
自分の器がまだどちらも適正な器になっていないのだ。
「………。」
俺はしっかりとアキラの忠告を受け入れる。
「でも、」
アキラが言葉を付け足す。
「そういうのは僕は嫌いじゃありませんよ。」
にっこりと俺に微笑みかけるアキラであった。




