勇者、選択を迫られる
「おい。」
俺は小さな泉に佇むアキラに向かって声をかけた。
「来てくれたんですね。」
振り返って俺に笑いかける。
男だが容姿は女に見間違えるほどだ。
夕日に照らされた泉をバックに絵になると思ってしまった。
だが、男だ!
俺はぶんぶんと顔を横に振りアキラに話を聞こうとする。
「…さて、説明してもらおうか。」
「そうですね…。」
アキラが考えるような動作をした後、俺に説明を始める。
「僕は異世界から召喚された。という話はしましたね。」
「そこで神と出会った事も…。」
前半は前に戦場で話したおさらいだった。
そして後半に入り、話の確信まで進んだ。
「貴方が【勇者の儀式】の洗礼を神自身から受けたという事は紛れもなく貴方は「勇者」です。」
「そして、それと同時に貴方は「魔王」でもある…。」
そうだ、俺は魔王だ。
だが何故、神とやらは俺を勇者と認めたんだ?
その疑問をアキラに問いかける。
「僕は本来、勇者として召喚されるべきではなかったのかもしれませんね。貴方がこの世界の勇者だとしたら僕は別の世界の勇者です。」
言っている意味がわからない。
更に説明をアキラに要求する。
「僕は神によってこの世界を改善する為に召喚されました。」
「だけど、神も全能ではありません…。」
アキラが俺に背を向け泉を見る。
「この世界を改善しようとしている貴方こそが真の勇者だと僕は思いますよ。」
そして再び俺を見てアキラが笑う。
そうじゃない、俺が聞きたいのはそうじゃないんだ。
俺は自分の答えにならない答えをアキラにぶつける。
「俺が勇者ってのはそもそもおかしいだろ!?俺は魔王なんだぞ!」
アキラが俺の瞳を真っ直ぐ見て答える。
「だから、先ほど言ったように貴方は世界を改善しなければならない。」
「勇者か魔王のどちらかを選択しなければならない。」
その声に歪みはない。
これが俺の運命なのか…。
俺は考えるようにその場に立ち尽くした。




