勇者、理性に逆らう
そしてそれは長い夜だった。
アンジュが酔っ払い俺を口説こうとしてくる。
「ねえ?クロムぅ、私のどこが魅力的なのぉ?」
実はアンジュの酒に付き合うのは初めてで
こんな酒癖が悪いとは思ってなかった。
「お前、この基地の総司令だろうが!?少しは立場をわきまえろよ!」
俺が酔って絡んでくるアンジュに言い聞かせる。
とてもじゃないがアンジュの部下にこんな醜態は見せられないと思った。
「そんな事言っちゃってえ…、胸なの?やっぱり胸がいいの?」
そう言ってアンジュは俺の腕に絡みつき胸を押し当ててくる。
かなりのボリュームで押し当てられた胸は
とてもやわらかく…ってそうじゃなくって!?
「おい、アンジュいい加減に…。」
そう言いかけた時、部屋の扉が開く。
「あー、いいお風呂だったー。」
そう言って入ってくるパーティメンバーの女子達。
そして時間が硬直する。
どれくらいだろう、ほんの少しだがとても長く感じた硬直。
失礼しました。と言わんばかりに扉を閉めるリリス。
部屋の外から「なんでクロムがあんな奴に言い寄られてるのよ!?」と
サーシャの怒号が聞こえるが多分リリスとアーシェが止めてるので
この飲み会の助けは期待できない。
だからなのか、物凄く長く夜を感じたのだった。
「ちゅんちゅん」と鳥の鳴く声が聞こえる。
アンジュが酔いつぶれたのは夜が明けた頃だった。
こうなっては流石にリリスを問い詰めようとしたが
時間が時間なだけに問い詰める事が出来ない。
俺も少し寝よう…。
そう思って机に突っ伏して寝てるアンジュを
ベッドに運び俺は床で寝る事にした。
ベッドに下ろしたアンジュの寝顔が可愛くて
理性と戦う羽目になったが俺は魔王で勇者だ!
寝込みを襲うのは勇者として良くないな…。
いや、魔王としてやっぱり堂々と襲ったほうが…。
そんな欲求に駆られながら俺は睡魔に身を任せ、気づけば正午過ぎだった。
辺りを見回すとアンジュはまだベッドの中で静かに寝息を立てている。
俺は一杯水が飲みたくてアンジュを寝かせたまま部屋を出る。
するとそこにリリスがにぱぁっとした悪い笑みで俺に言う。
「勇者さん昨日はオタノシミでしたね。」
………。
俺は頭が痛くなって無言でリリスの眉間をグリグリと両手で締める。
「痛い!勇者さん痛いです!!!」
涙目になったリリスだったがこれでも手加減はしたつもりだ。
そこでふっと思い出す。
「あ、リリス。」
俺がリリスに問いかける。
「なんでしょう勇者さん?」
俺の問いにリリスが尋ねる。
「昨日、精霊の泉について今の俺なら大丈夫ってどういう意味だ?」
聞きたかった疑問をリリスに問いかける。
「うーん、表現が難しいんですよね。要約すると【勇者の儀式】が執り行われた今の勇者さんなら多分見つける事が出来るって事です。」
俺は「ふむ…。」と考える。
「あ、一応このヴァルヴァ近郊に精霊の泉がないか魔族さん達に聞いてみましたが聞いたことないって情報ばっかりでした。」
気を利かせたのかリリスが精霊の泉について聞いてくれたようだ。
しかし、そのちんちくりんな姿で聞いた訳じゃないよな…。
変な追求はやめにして素直に礼を言っておいた。
「あとヴァルヴァの南にある森林地帯はキップアで一刻以上かかるそうなので今日の夕方ならそろそろ出た方が…。」
リリスが言葉を付け足してくる。
まじか、やべえ寝すぎた…。
キップアの馬車を雇ってる時間が勿体ない。
俺はパーティメンバーを置いて一人で
ヴァルヴァの南にある森林地帯に向かう事にした。




