勇者、仲間の元へと戻る
とりあえず聖騎軍が去ってくれたお陰で
避難民を第二区域へ移動させる事が出来た。
そしてアンジュと仲間がいる第一区域へとアクトと共に戻る。
だが、しかし
解放されていたのはキリムだけで俺の
パーティメンバーは牢獄の中のままだった。
「おい、アンジュ。俺のパーティメンバーを牢獄から出せ。」
俺がアンジュに命令口調で言う。
「出しても構わんが安全の為にあえて入れておいたのだぞ?」
「牢獄から出そうとしたら人間にハーフエルフ、ここは魔族の拠点だ。絡まれて死なれても私は責任を持てないしな。」
さらっと言うアンジュ。
まぁ確かにそうだな。と納得する俺に対しキリムも隣で苦笑して言う。
「まぁクロムが帰ってきたんだし牢獄じゃなくどこか目の届かない部屋に移動させるくらいいいんじゃないか?」
キリムが有難い提案をアンジュにしてくれる。
「ふむ、まぁそれくらいならいいだろう。」
アンジュはそう言うと俺に牢獄の鍵を渡し
「奥の突き当たりの部屋を使え。」と言ってきた。
牢獄に行く途中で俺を見かけた魔族は俺が魔王の息子という事を認識してるらしく
何故か敬礼をしてきたりサインを求められたり
何かアイドルにさせられた気分だった。
牢獄の重い扉を開ける。
【ギィィィイイ】と音を立て扉が開く。
「クロム!!!」
第一声に聞こえたのはサーシャの声だった。
護符の効果は切れたようで皆、元の姿に戻っていた。
「大丈夫だったか?」
俺が皆に尋ねる。
「うん、大丈夫だったけど…。」
サーシャが言う。
「けど…?」
俺がサーシャに尋ねる。
「何か魔王がこの砦に帰ってきたとか噂が外から丸聴こえなのよね。」
サーシャの答えに俺がぶっと吹き出す。
パーティメンバーは俺の事を「勇者」で「人間」であると思っていて
実は俺が「魔王」で「半魔族」だという事を知らない。
これは出来れば隠し通して旅をしたいのだが…。
どう説明しようかと思った時、キリムが俺の後ろから牢獄に入ってくる。
「ああ、魔王様は確かに帰られた。で、そこのクロムは魔王様のご友人でご来客という訳だ。」
起点を利かせたつもりかキリムが突拍子もない事を言い出した。
「流石クロム!魔王と友達だったのね!…って、ええええええ!?」
サーシャの予想通りのリアクションに俺は頭を抱える。
「ふむ、魔王の友人か…。只者ではないと思ったが…。」
アーシェが俺を見て言う。
「なるほど、なるほど…。そういう事にしておきますか。」
リリスがニヤッと笑って俺の方を見る。
「………。」
コクコクと首を縦に振るユフィア。
…この状況で多分俺が魔王だと気づいてるのはリリスだけだ。
ユフィアはどうか知らんが。
「と、とにかく説明は後でしてやるからついてこい!!!」
俺はとりあえずパーティメンバーを牢獄から出し
アンジュに言われたVIPルームにパーティメンバーを誘導する。
道中、頼むから魔王コールとかするんじゃねえぞっと殺気立ってる俺に対し
他の魔族も気配を察したらしく黙って俺から間を空ける。
VIPルームに到着してサーシャが
「おー、すごい部屋…。」と感心する。
どうやら本当に来客用の部屋らしく装飾も豪華で普通の宿屋では味わえない、
まるで王宮の客間のような部屋だった。
「クロムが魔王の友達っていうのは色々聞きたい所だけど…。」
サーシャが俺をジト目で見る。
俺はビクッとし、咄嗟にリリスを捕まえる。
「ちょっと来いリリス!!!」
腕を掴み、日の沈むベランダへと連れ出していた。




