勇者、宣言する
涙を流し俺に抱きつくアンジュ。
この光景を目の当たりにして驚く魔族達。
「おい、アンジュ様が人間に抱きついてるぞ…。」
「なに、あれ人間を締め上げてるんじゃないの?」
「いや、それにしては様子がおかしいぞ…。」
ザワザワと騒ぐ魔族達を押しのけ
「おいいいいい、何やってんだあぁぁぁああ!?」
と後ろから声がする。
振り向くとそこにはミドガルドが今にも噴火しそうな顔で
俺とアンジュに迫ってきた。
「な、な、なんでアンジュ様が人間無勢に、だ、だ、抱きついて涙流してんだコラァアアアア!?」
怒りが収まらないミドガルドは言葉を続ける。
「いけすかねえ人間め、アンジュ様に幻惑の魔法でもかけたなぁ!?ぶっころしてやるからな、な!?」
ミドガルドは発狂しながら剣を抜きこっちに突進してくる。
まずいな、俺はアンジュに抱きつかれて身動きが出来ない。
しかし、
その行動に気づいたアンジュがミドガルドに視線を向ける。
もはや、その視線は殺気。
その殺気に気づいたミドガルドは「うっ…。」と言い、動きを止める。
「貴様、我が最愛する夫に向けて剣を抜いたな、この罪は私が断罪してやろう…。」
そう言うとアンジュは俺から離れて鞘からレイピアを抜く。
っていうか夫ってまだなってないんだけど…。
「お、お、お、夫ぁおおお!?そ、そんな馬鹿な!?目を覚ましてください!アンジュ様!?」
ミドガルドは必死にアンジュを諭す。
「問答無用、死ね!」
そう言ってアンジュがミドガルドを斬ろうとした瞬間、俺はアンジュの肩を掴む。
「まぁ待てって俺が説明した方が早い。」
俺はそう言ってアンジュを制止する。
「し、しかし…。」
アンジュが口ごもる。
「自分の部下を殺す事ないだろう。まぁ見てろって。」
俺はアンジュの前へ出てミドガルドと対峙する。
「き、貴様!ぜ、絶対に許さんぞ!!!その魂、冥界に送りつけてやるわ!!!」
如何にも小物っぽく聞こえるミドガルドの言葉。
「さて、冥界に送られるのはどっちの方かね…。」
ぼそっと俺は呟いたがあまり荒事にはしたくないんだよな。
俺は腰に備え付けられた小ぶりのナイフで自分の指を切り血を流す。
「見ろ、俺は魔族だ。そして…、魔王の息子でもある。」
群衆に見せつけるように緑の血を流す。
しかし、
「ま、魔王様の息子だと!?確かに御子息がいるのは知ってるが人間の姿じゃねえか!?」
ミドガルドがそう言うと周囲を囲んでいる魔族もザワザワと騒ぎ出す。
「確かに、人間だよな…。」
「血が緑に出来る魔法とか薬品って何かなかったっけ?」
「魔王様の御子息なんて見たことないからわからないな。」
やっぱ駄目か…。仕方ないと覚悟を決め俺は
「はぁ…。」と溜息をついて呪文を綴る。
「今、此処に綴る。我冥界の主たる汝に告ぐ。」
「我は魔王なり、その言霊を聞きし闇の落し子よ。」
「響くは成りて嫦娥に満ちて我は召喚を宣言する。」
「いでよ、ダーク・ドラゴン!!!」
俺は残りのマジックポイントをフル活用し究極召喚を試みる。
【ドォォォオオン】と轟音と共に現れたのは闇に覆われた竜。
魔族に伝わる御伽噺に出てくる冥界のドラゴンだ。
実は召喚するのはこれが初めてだったりするが
今の俺のマジックポイントでは召喚するだけが精一杯。
召喚して姿を見せ魔族達をひと睨みすると竜は姿を消し冥界に帰っていく。
ふぅ、やっぱ禁忌クラスの魔法を連発すると身体の負担がやばいな…。
目眩がするがここで俺が倒れるわけにはいかない。
さてと…。
「今、冥界のドラゴンを召喚した。この意味、然とわかるであろう!」
「今此処に宣言する。我は魔王!父ギデアスの後継者であり貴様らの導き手だ!」
いずれわかる事だ。もう隠さなくていい。
親父が死んだ事は世間一般には公開していないが
この召喚魔法を詠唱すれば嫌でも俺が魔王の血筋だと言う事は伝わる。
親父の死の間際、親父から授かったこの禁忌を見せつけ群衆を魅了させる。
「おおおおおおおお!!!」
大歓声が上がり、やっと群衆は俺が魔王の血筋である事を認めてくれたようだ。
たった一人を除いて。
「い、いや…、俺は!俺は認めんぞ!き、貴様が魔王様の息子である訳がない!」
ミドガルドが俺に指を差し叫ぶ。
やれやれ、馬鹿はやっぱり馬鹿なのか…。
どうすっかなっと考えていた所にアンジュが俺の前へ出て
いきなりミドガルドに蹴りを入れる。
「ぐはっ!?」とミドガルドは後方に吹っ飛び家の壁にめり込む。
「これでわかったであろう、クロムは…、この男は魔王の息子にて我が最愛の夫!楯突く者は私が薙ぎ払う!文句のある輩はかかってこい!」
追い打ちをかけるようにアンジュが群衆に叫ぶ。
まぁ、いいか…。と俺は頭をポリポリかく。
「魔王の御子息様バンザーイ!これで人間共の聖騎軍との均衡がやぶれるぞ!!!」
昨日は勇者コール、今日は魔王コールか…。
さぁてこの状況をうまく利用してなんとか戦争を終わらせないとな。
と苦笑する俺であった。




