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勇者か魔王  作者: 和都
・第三章、ノヴィウス大陸【中央都市攻略編】
51/81

勇者、泣かせる

衝撃の一言により俺は固まる。


………。


「な、なぁアンジュそれっていつ言ったっけ?」

俺は言葉を振り絞るように言う。


「あれは忘れもない…。そうお前が10歳の時だ!」

アンジュは胸を張って答える。


10歳って事は精神年齢的に言うと俺が5歳くらいの時じゃねえか!?

そんな事まだ覚えていたのか…。


ううむ、と俺は考え込んでいると


「さあ!まだ戦いは終わっていないぞ!」

とアンジュは俺に声をかけてくる。


困ったな、そんな約束した覚えはまったくもってない。

まぁ多分忘れてるだけだと思うが…。

そう言えばアンジュの親父(先代魔王の俺の親父の右腕)から

「お前はクロム様の伴侶になるのだぞ!ガッハッハ!」

なんて台詞をよく聞いていた覚えはある。


やっぱ本気にしてんだなぁ…。


「な、なぁどうしても戦わないと駄目か?」

俺がアンジュに問いかける。


「私が勝つまで駄目だ!」

キッパリ答えるアンジュ。


だー…。もうややこしい。

別に俺もアンジュの事は嫌いじゃないし冷徹な一面は仕事の時の顔だし

普段は優しく御淑おしとやかな魔貴族の令嬢だ。

ある一面を除けば…。


「クロムの為に花嫁修業でここの指揮をしているんだぞ!」

アンジュがまた頭の痛くなるような事を言ってきた。

それ絶対花嫁修業じゃないよな?


「クロムの為に料理の勉強もして!一応…、食べられる…、ような料理も…。」

今まで勢いのあったアンジュが口ごもる。


そう、さっき考えてたある一面というのは

アンジュの料理は最強最悪にまずいのだ。

まずいなんてレベルじゃない…。

昔、俺とキリムが無理矢理試食させられ俺は三日三晩寝込み

キリムは蘇生魔法でどうにか一命を取り止めた。


そんなレベルの料理とも言えない、なんというか最強最悪の毒なのだ。


「それは嬉しい事だが前に言ったのは過去の話だ。」

俺は話を切るようにアンジュに言う。


「今は今、別に俺より強くなくても別に構わないんだぜ?」

俺はアンジュに続けて言う。

正直、魔王より魔王の嫁の方が強いって世間的にどうよ…。


「では、嫁にしてもらえるんだな!」

パァっと明るい今までに見せたことのない満面の笑顔で俺を見るアンジュ。


ぐ…、しかしまだ俺にはやる事が…。

というかまだ結婚とか早いと思うし…。

俺は150年生きてるが人間の年齢で言えば16歳くらいなのだ。


しかし、そこで俺は考えた。

ここでうまい事、このネタを使えばアンジュを

ここから撤退させる事が出来るかもしれない。


よし、そうと決まれば…。


「アンジュ、俺はまだ結婚したくない。」

率直な一言にアンジュがポカンとする。


しかし、


「何故だ?何故まだしたくないのだ!」

一瞬で表情が変化し俺を責めるように問いかけるアンジュ。


「俺はまだ魔王になったばかりだ、そしてまだこの世界情勢がわからない。」

「だから、旅をして戦争のない世界を築きたいんだ。」

俺が心から思っている事をアンジュに言う。


「だったらクロムがしっかり魔王の仕事をして人間絶滅させれば戦争は終わるだろ!」

アンジュが魔族らしい意見を俺に言う。


「違う、違うんだ。俺達の教育では人間は絶対悪と見なされ人間達の間では魔族は絶対悪と見なされている。」

「だが、人間も魔族もいい奴はいいし悪い奴は悪い。」

「俺はその人間も魔族も悪い奴を倒して世界を平和に…、戦争のない世界にしたいんだ!」

俺の心の底にある気持ちをそのままアンジュにぶつける。


「………そんな幻想を…。」

アンジュは俺に向かって言う。


「ああ、そうだ!幻想だ!だけどな、俺はその幻想を叶えるために今は勇者として人間と旅をしてるんだよ!」

「魔族だって最低な野郎は最低なんだ!全ての魔族がいい奴なんて事はない!」

俺はまたアンジュに自分の気持ちをぶつける。


「…そうか、だからちまたで有名だった勇者がお前だった訳か…。」

納得するように言うアンジュ。


「確かに外見は人間と変わらないクロムなら勇者として人間に持てはやされても不思議ではない。」

「だが、これはれっきとした反逆行為だ!」

アンジュが俺に告げる。


「ああ、そうだ。だがな、アンジュ…。」

「俺は魔王だ、そして俺がルールだ!俺が決めた事にごちゃごちゃ言わずに従え。」

俺は異界の闇に足をとられているアンジュを見下ろすように冷たく言う。


「ぐ、うぅ…。」

言葉がでないアンジュ。


「じゃ、いつになったら結婚してくれるのよ!?」

言葉がでなかったアンジュが言葉を振り絞るように確信をついてくる。


「あ、えーと…。あと50年くらい待ってくれ…。」

適当に誤魔化そうとする俺。


「そんなに待てる訳ないじゃない!!!」

アンジュが叫ぶ、若干涙目なのは気のせいじゃない。


まずいな…、このままだと泣かせてしまうな…。

うーむ、どうしよう…。


「わかった。」

考え込む俺に突然アンジュが口を開く。


「ん?何がわかったって…?」

俺がアンジュに問いかける。


「私もクロムと一緒に行く、もう寂しい思いは嫌。」

またまた突然の一言に俺は固まる。


「えーと、それって俺のパーティに同行するって事だよな…?」

俺がアンジュに問いかける。


「ああ、その通りだ。」

アンジュが腕を組みコクコクと首を縦に振る。


ううむ、アンジュをこちら側につけてしまえば魔貴族の連中も

俺の旅に対しそんな言わなくなると思うしその方が効率がいいのか…?


またもや俺は考え込む。


「うーむ、わかった。旅の同行は許可しよう。ただし魔族だとバレないように工夫しないと駄目だぞ。」

そう俺はアンジュに言う。

俺は人間の勇者として旅をしている。

だから魔族がパーティにいるなんて知られたら信用ガタ落ちだ。

まぁ俺も半分魔族なのだが。


「わかった、それではここでは剣を収めよう。」

そう言うとアンジュは剣を鞘に戻す。


ふぅ。

一息つくと俺は「ダーク・デス・タブー」の異界結界を消す。

やっぱりこの魔法は魔力消費が激しい。

咄嗟に使えないのも弱点だし本当にこれは勇者が魔王城に

乗り込んできた時用の追撃魔法だよな…っと思ってしまう。


異界結界を消し辺り一面の闇は消え去り俺とアンジュは元いた空間に戻される。


異界結界を解除したお陰でアンジュの足に纏う闇は消え去り、

アンジュが俺の方に走ってくる。


そして、


【ドンッ】と音と共にアンジュが俺の胸に飛び込んでくる。


「お、おい!アンジュ!」

俺は戸惑い、離れるように言おうとしたが


「ずっと…、ずっとこうしていたかった…。」

涙を流すアンジュを無理に引き離す事は今の俺には出来なかった。

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