勇者、再会する
「そこまでだ!」
ミドガルドの後ろから聞き覚えのある懐かしい声が響く。
凛としていて、素直に従うしかないような冷たく威厳のある声。
俺はその声で確信する。
確信して叫ぶ。
「アンジュ!!!」
俺の叫び声を聞いてアンジュが鋭い眼光を向けてくる。
「む、ク、クロム…?」
アンジュが俺に戸惑いを見せる。
「そうだ、俺だ。」
俺はアンジュに言う。
「クロム…、魔王様がこんな場所にいる訳が無い。貴様は誰だ?」
アンジュが冷たく鋭い眼光を俺に向ける。
「いやいやいや、俺だよクロムだよ!」
俺は必死にアンジュに言う。
「ならば、剣で示せ。」
そう言うとアンジュは鞘からレイピアを引き抜き俺に真空波を放つ。
「ちっ、結局やるしかないのかよ!?」
俺は真空波をリベレーターで受けきりアンジュに視線を戻す。
しかし、アンジュの姿が見当たらない。
どこだ!?
焦って周囲を見渡す俺に
「後ろだ。」
アンジュはそう言うと俺に向かってレイピアを突き出す。
「くっ!?」
寸での所で俺は突き技を横にかわし俺も剣撃を食らわす。
「甘い。」
そう言いながらアンジュはレイピアで俺の剣撃を受け流す。
俺の剣撃を受け流したアンジュは俺の首にレイピアを突き出し寸止めする。
「もう終わりか?」
アンジュはニヤッと余裕の笑みを俺に見せる。
「…まだまだ!」
俺はそう言うとアンジュのレイピアを左手で掴み、
右手のリベレーターの柄でアンジュに向かって殴打を放つ。
シュッとかわされ俺の左手からレイピアが引き抜かれ
俺の左手が切れる。
ぐうぅぅぅいってええ!
痛みに耐えながらも俺の視線はアンジュを追っている。
次は見失ったら恐らくアンジュは止めを刺してくるだろう。
「やっぱつええな、アンジュは…。」
俺は戦いの最中、アンジュに感心してしまう。
前に会った時よりも数段強くなっている。
この最前線の指揮を任されてるだけあるよ、ホント…。
「ふぅ。」
俺は一息つくと高速で駆け抜けるアンジュから視線を外し
リベレーターを鞘に収め、アンジュの殺気だけを追うようにする。
要はいつ仕掛けてくるかわかればいい。
アンジュの殺気だけ追うようにして俺は魔法の詠唱に集中する。
アンジュに俺が魔王だと分からせるようにするには…。
やっぱこの魔法しかないよなぁ。
「我、冥界の主たる汝に紡ぐ!」
「力にて力、魔より魔、闇から闇。」
「契約に従い黄昏の時を掌握する我と共に昇華の儀にて贄を貪る。」
「此処に来りて闇の力を開放せん。」
呪文の詠唱が終わり俺の両手に闇が集まる。
この闇は冥界の主から借りられる、現魔王だけが使える最大の禁忌。
俺は両手を前に突き出し呪文の詠唱を完了させる。
「ダーク・デス・タブー。」




