勇者、和解する
キリムを誤魔化す前にここにいる魔族のジルを誤魔化さなければならない。
「おい、ジル。」
俺はサーシャやアーシェに聞こえないようにジルに言う。
「はい、クロム様?」
ジルが忠実に返事をする。
「今、訳あって俺は人間側についている。だが、魔王軍にその事をバラすな。」
俺は命令するようにジルに言う。
「仰せのままに。」
ジルは昔からこんな奴だから絶対に裏切らない。
「ああ、あと俺勇者だからそこんとこ、よろしく。」
ややこしくなりそうなのでついでに前もって言っておく。
「…!?仰せのままに。」
流石のジルも驚きを隠せないようだが当然っちゃ当然だろう。
魔王が勇者やってんだから…。
さて、次はと…。
「アーシェとサーシャは後ろの馬車に戻ってろ、俺はボスと話してくる。」
俺は二人にそう言って二人の答えを聞かぬまま、先頭の馬車まで走る。
先頭の馬車に到着してこっちも勇者コールが鳴り止まないまま
俺はキリムと顔を合わせる。
「おい、クロム、勇者ってどういう事だ?ここに勇者がいるのか?」
少し焦ったような感じでキリムは俺に問いかけてくる。
この様子だと誤魔化しきれないと踏んだ俺。
「あぁ、話せば長くなるんだが…。」
俺は魔族で親友でもあるキリムに事のあらましを話した。
………。
「ってな訳で俺は今、勇者になってしまっている。」
一通り説明を終えてキリムの口がポカーンと空いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て。勇者ってお前人間側についてるのか!?」
動揺し恐る恐る俺に聞いてくるキリム。
「んー、まぁそういう事になっちまってるかな?」
軽く答える俺。
「それじゃ俺達敵同士じゃないか!?というかお前は魔王なんだぞ!!!」
「もっと威厳持てよ!というかこの戦争終わらせろよ!!!」
心の内を俺にぶつけるキリム。
幼馴染で親友だから俺が魔王になってもこんな砕けた口調で話してくれている。
「俺はな…。」
「戦争を無くす為にあえて人間側の視点から世の中を見てるんだよ。」
静かに俺はキリムに語りかけ言葉を続ける。
「前にも言ったろ?俺は人間に興味がある。実際交流してみたら魔族と何ら変わりはない、良い奴は良いし悪い奴は悪い。」
「しかし…。」
キリムが言葉を挟んでくるが
「俺は勇者となってこの戦争を終わらせる。」
「そして魔王としてもこの戦争を終わらせる。」
俺の決意を親友であるキリムにぶつけた。
………。
「お前がそこまで考えてるなんてな、」
「ギデアス様がご存命だったら今の台詞聞いて腰抜かすぞ。」
キリムが俺に対して苦笑しながら言う。
「だから、俺は…。」
俺がキリムにハッキリと言おうとした瞬間。
「わかった、わかった。俺は何も言わないし何も聞いてない。」
「好きにしろよ。」
親友は俺の心を信じてくれたのだ。
「すまない、恩に着る。」
俺が親友に礼を言うとキリムが言う。
「でもな、アンジュはお前が説得しろよー、俺には無理だかんな!」
ぶっと俺が吹き出しそうになった。
そういえばアンジュの件がまだ残ってた。頭が痛い…。
「ま、まぁ中央都市一緒に行ったらその時説得する…。」
正直説得できる自信は皆無だがやると決めた事はやらねばならぬ。
「とりあえずヨコスの人間は町に帰して中央都市に行こう。」
俺はキリムに言うと「あいよ。」と答えが帰ってきた。
さて、次はサーシャ達に説明して中央都市に潜入するという形をとるか…。
と考える俺であった。




