勇者、馬車を救う
「アンジュ…、アイツが中央都市にいて尚且つ指令もやってるっていうのか!?」
俺は慌てたようにキリムに言う。
「ああ、最近人手不足で最近将軍に抜擢されてバリバリ働いてるぞ。」
尋ねたキリムが俺に答える、まじかよ…。
アンジュというのは俺とキリムと一緒でガキの頃から魔学校で3悪として
知られていた紅一点、そして成績は俺を抜くダントツの主席で卒業した奴だ。
アンジュの家系は軍事一家でジイが俺の親父の左腕だとしたら
アンジュの親父が右腕にあたる。
そして俺はガキの頃からアンジュには何一つ適わなかった。
まずい、まずいぞ…。
背中に嫌な汗を感じる。
「な、なぁ。キリムの一言でアンジュを中央都市から撤退させる事って出来ないよなー…?」
駄目元で俺はキリムに聞いてみる。
「はぁ?無理に決まってるだろ。あんなジャジャ馬、魔王であるお前の言う事ですら聞きやしないじゃないか。」
無理無理と顔を横にブンブン振るキリム。
どうすっかな…、まじで…。
「まぁとりあえずこの人間共はお前に任せて俺らは中央都市に戻るよ。」
キリムが焦る俺に言ってくる。
「ちょ、ちょっと待て!俺も中央都市に連れて行け!」
俺は間髪入れずキリムに打診する。
「ん?まぁいいけどこの人間共どうするんだ?」
キリムが俺に問いかける。
「大丈夫だ、俺は人間を奴隷にしている。だからソイツに連れてかせるさ。」
口からでまかせを言いキリムを納得させようとする。
「ふむ、なら別にいいが…。」
キリムが答える。
「ああ、あと仲間を何人か連れて行くが問題ないよな?」
追加でキリムに言う。
「ああ、それは別に構わないぜ、人手不足でまいってるんだ。」
快く承諾してくれたキリム。
さて、ここからが問題だ。
俺は後方の荷馬車に戻り、アーシェとサーシャが
魔族一人に対し、物凄い戦闘を繰り広げていた。
「ストップ!ストオオオオオップ!!!!」
俺がその戦闘を止めに入る。
「ちょ、ちょっと何で止めるのよクロム!」
そのサーシャの言葉にピクッと反応した魔族。
「クロム…?」
魔族がその一言を発した瞬間、俺はその魔族と目が合った。
げ、コイツは王宮直属の…ジル、なんでコイツもここにいるんだ!?
「クロム様…、何故このようなと…」
言いかけた言葉を俺が手でジルの口を封じる。
「ちょ、ちょっと待てお前ら!!!」
俺が叫び、とりあえずその場を収めようとする。
耳元で俺がジルに囁く
「いいか、この事は他言無用、今から言うことは誰にも言うんじゃねえぞ。」
殺気を込めた言葉をジルに言う。
「む…、承知しました。」
何か訳ありなのかと察してくれたジル、
流石王宮直属の騎士だけあって命令には忠実である。
「おい、サーシャ!アーシェ!」
俺が二人に声をかける。
サーシャは「何よ?」と不貞腐れアーシェは「何だ?」と弄れている。
まぁ戦闘を邪魔されちゃ俺もそうなるだろう。
「ここのボスと話をつけてきた、だからもう無益な戦いは止めるんだ!」
俺は二人に叫ぶ。
「流石クロム!いつもながら仕事が早いわね!」
喜ぶサーシャ。
「ふむ、まぁいいだろう。お前の言う事は最もだ。」
なんとか納得してくれたアーシェ。
「貴様、クロム様を「お前」扱いだと…、ふがっ」
慌てて俺はジルの口を手で塞ぐ、頼むから余計な事を言わないでくれ。
「とりあえず、ヨコスの町の住人は町へ全員帰す事になった!」
俺がそう言うと馬車の中からこっちの様子を
伺ってたヨコスの住人達が一斉に喜び騒ぎ出す。
「やったー!私達帰れるのね!」
「これで殺されずに済むぞ!」
「やったー!やったー!!!」
様々な声が飛び交う中、サーシャがふふんと鼻息を鳴らしまた嫌な予感がする。
「ここを救ったのは勇者クロムのおかげよ!貴方達!大いに敬いなさい!!!」
ぶっと俺が吹き出し、ジルが「勇者だと…?」とギロリとサーシャを睨むが
俺が「後で全部説明するからお前はとにかく何もするな!」とジルに言う。
「おおおおお!勇者様!!!勇者クロム様!!!」
大歓声が上がり周囲の馬車まで伝わり、いつの間にか全ての馬車は勇者コール。
こりゃキリムをまた何とか誤魔化さないといけないな…。と思う俺であった。




