勇者、追いつく
合成獣の馬車を出発させて一刻ほど。
辺りは日が沈み、暗闇に包まれていた。
「しかし、この合成獣ってのは凄いな。」
後ろの馬車から前へ顔を出し俺に言ってくるアーシェ。
「ああ、キップアと比べ物にならないだろ?」
俺がアーシェに答える。
移動速度はキップアの5倍は早い。
そのお陰でもうすぐ奴らに追いつけるはずだ。
まぁ心配なのはこの馬車がキップア用に作られてて
いつバラバラになってもおかしくないというとこなんだが。
「見えたぞ!」
俺が後ろの馬車に向かって叫ぶ。
思ったとおり奴らはキップアの馬車で大量に人間を運搬しているようだ。
「1、2…、8…、10以上見えるな。」
奴らは明かりに火を灯してるので正確な位置と数がわかりそうだった。
「一気に乗り込むの?」
馬車に乗ってるサーシャが俺に尋ねる。
「うーん、一気に乗り込んでもいいんだが…、人間を盾にされると厄介なんだよな。」
率直に思った事を口にする俺。
「でも、魔族って少数なんでしょ?ヨコスくらいの人数だったら楽勝じゃない?」
サーシャが俺に提案するように言う。
「ま、それもそれでありか。」
俺は心に決めると一気に合成獣を操り運搬しているキップアの馬車の裏に着く。
そして一番後ろを護衛している魔族と目が合った。
「ぐ、貴様!何者…。」
護衛の魔族が言葉を言ってる最中に俺は
「寝てろ。」
そう一言いって鞘に入っているリベレーターで魔族の頭を殴打する。
ガスッと鈍い音がしたがここで殺したりして大騒ぎになったら
色々と面倒くさい。
パーティで今動けないのはカシムと…、
ユフィアはやめといたほうがいいな、うん。
「アーシェ、サーシャ、リリス!」
俺は後ろの馬車に声をかけると言葉を続ける。
「この馬車達の主導権を取り返すぞ!!!」
そう言って俺が一列に並んだキップアの馬車の先頭までダッシュで走る。
ヨコスの数の人間全て…、と言ってたな。
町の大きさは大したことないが人間の数は多い。
横目で見るに馬車には10人ほど乗ってるように見える。
馬車の先頭に到着すると馬車を操る魔族と出くわした。
「さて、人間を返してもらおうか。」
俺が魔族に言う。
「む?誰かと思えばクロムじゃないか。何やってんだ?」
馴染みのある昔からよく聞き慣れた声。
あれ…、なんでコイツがここにいるの?
俺は不覚ながら一瞬固まってしまった。




