勇者、戦慄する
「うおおおおおお、どこだあああああああ!!!」
他のパーティメンバーを探し町を駆け回る俺。
キップアの馬車の位置まで戻ったが誰もいない。
各々自分の敵と一対一で戦う為に離れたのだろうか?
ううむ、とりあえずアーシェとサーシャは大丈夫だとして
心配するとしたらリリスかカシムか。
ユフィアは誰かについてって守って貰えてるだろう。
そう楽観してた俺だが大きな魔力の揺らぎを感じる。
この魔力は…。カシムか!?
カシムが危ないという事か!?
俺は大きく揺らぐ魔力を目指し屋根伝いに全速力で向かう。
そしてそこで見た光景に俺は戦慄した。
カシムと敵の魔族が対峙していたがどちらも様子がおかしい。
何故二人ともこんなに苦しそうなのだ?
目を凝らして見てみるとカシムと敵の魔族の足元、
というか地面全体に禍々しい魔力を感じる。
屋根の上にいた俺には影響はないが
徐々にカシムと敵の魔族の魔力が吸い取られているように感じる。
そして、その魔力を扱う主と目が合った。
「ユフィア!?」
ユフィアは宙を浮き両手を下へ向け禍々しい魔力を注いでいる。
俺がユフィアに声をかけると「………?」という顔で俺を見てくる。
「何やってんだユフィア!?」
俺が問いかけると魔力の注入を片手だけでやり、
もう片手で宙に氷文字を書く。
【食事を頂いてます。】
食事だと!?
まさかあれか、禁呪で蘇らせたグールの活動力は魔力だったよな…。
俺とは魂のパイプラインを繋いでこの世に留まっているだけで
それを維持する為の魔力は俺から供給していない。
つまりコイツは今、腹ペコで目の前にエサが出てきて食っている。
そして運悪くカシムもそれに引っかかってしまったという事だな…。
なんつーか、蟻地獄的な…。そんな風に思った。
とにかく今はカシムを助け出さないと…!
しかし、俺もあそこに降りたら蟻地獄の餌食になりかねない。
「おい、ユフィア!その魔法止めろ!」
俺は叫んだ。
「………?」
そんななんで?って顔しないでくれ、頼む。
はぁっとため息を吐いてユフィアは地面に向けてる掌をぐっと握り、
カシムと敵の魔族が苦しみから解放される。
「ハァハァ…、貴様何者…」
そう敵の魔族が口を開いてる途中で俺は剣撃を食らわせ、
敵の魔族の体を二つに切断する。
カシムは気を失ってるようで
まぁ目を覚ましたら敵の魔族のせいにしておこう。
「ほら、ユフィア。この魔族まだ生きてるからコイツから魔力吸い取れ。」
俺がそうユフィアに言うとユフィアは、
にぱぁっと笑って魔力を両手の掌で吸い取りにかかる。
我ながら禁呪で蘇らせておいて言うのはなんだが
とんでもない事をしてしまったと思う俺であった。




