勇者、試される
一夜が明け、結局俺は眠りにつくことが出来なかった。
一晩中、自分が勇者じゃないのか?っと考えてたからだ。
考えても考えても答えは出ない。
考えに耽っていると部屋のドアからノックが聞こえる。
「クロム起きてる?」
ドア越しに聞こえるのはサーシャの声だ。
「ああ、起きてる。今出て行く。」
俺はそう言うと支度を整え部屋を出る。
宿屋の一階(夜は酒場だったが)で朝食をとってる最中でも
俺は考えに耽ってぼけーっとしていた。
「勇者さん大丈夫ですか?」
そう声をかけてくるのはリリス。
「ん、ああ、大丈夫だ。」
上の空になってる俺は明らかに大丈夫ではないように見えるらしい。
「流石に昨日の今日で勇者勇者と崇められて疲れたんだろ。」
アーシェが干し肉を引きちぎりながら言う。
「ん、ああ、そうだな…。」
実際はそうではないがそういう事にしてしまおう。
そう思った。
今後の方針や食料品、薬品の補充等話し合ってる時に宿屋の扉が
バタンッと勢いよく開けられる。
またまた嫌な予感がする。
「勇者様!!!聖騎軍の幹部様を連れて参りました!!!」
そう言い放ったのは昨日酒場でドンチャン騒ぎをしていた時に
自称聖騎軍の中間管理職とか言ってた男だった。
おいおい…、まさかマジで中央突破なんて考えてないよな?
「ふむ、貴様が勇者か…。」
如何にも威厳のある筋肉質の中年の男が俺に問いかける。
「…ああ、そうだが?」
一瞬答えに戸惑ったが俺は勇者と肯定した。
「失礼。」
そう言うと中年の男はいきなり剣を抜き俺の頭に振り下ろしてくる。
ピタッと剣が寸止めされる。
「何故避けなかった…?」
中年の男が俺に尋ねる。
「殺気が無かったんでな、止めるとわかっていた。」
俺が中年の男に答える。
「ふむ、避けれなかったという訳ではないのか。」
そして中年の男は言葉を続ける。
「次は本気で殺りにいくぞ。」
中年の男から全力の殺気が俺に向けられる。
それを悟ったのか同じ席で朝食をとっていたパーティメンバーも後ろに下がる。
いつの間にかギャラリーがわーわー五月蝿いが
ここはひとつ実力をお見せしますか。
「ふん!!!」
正面から放たれた剣撃は俺を捉える。
が、しかし
「こんなものか?」
俺は片手の人差し指でその剣撃を止める。
「なんと…!?」
中年の男は驚きを隠せない。
実力差が歴然、だがそれを認めたくない中年の男が俺に何度も剣撃を浴びせる。
「うおおおおおおおおおお」
剣を振る轟音とチッチッチッと俺が指で剣撃を弾く音が宿屋に響く。
俺は座りながら微動だにもせず片手で肘を机につき顎を突っ伏して
全ての剣撃をもう片方の指で弾く。
何十回か本気の剣撃を指で弾いた後。
「はぁはぁはぁ…。」
実力を認めたのか疲れ果てたのか中年の男が膝をつき剣を収める。
「気が済んだか?」
朝の準備運動には丁度いいと思ってしまったがやっぱやりすぎたらしい。
「おおおおおおおおおお!!!」
大歓声が湧き上がり「勇者だ!本当の勇者様だ!!」という声が宿屋に響き渡る。
もうどうにでもなれ…。
息を安定させた中年の男が俺に無礼を謝る。
「誠に申し訳ない、その強さお主は真の勇者だ。非礼を詫びよう。」
そう言うと俺に頭を下げる中年の男。
「私はこういう者だ。」
魔法文字で宙に字を書き俺に伝える。
【聖騎軍、第七分隊隊長、カシム・オルディア】
ふむ、隊長クラスだったのか…。
俺は大したことないなっと一瞬思ってしまう。
しかし、聖騎軍の強さは個々の強さでなく兵の多さなのだ。
これは親父からも叩き込まれている。
我が魔王軍が1万の兵だとしたら聖騎軍は10万、およそ10倍の兵力だ。
「では、勇者様。誠に恐れながら中央の激戦地区に助力をして頂きたい。」
なんか勝手なお願いをされた。
「いや、いきなり中央ってのはちょっと…。」
俺がカシムに言いかけた時、いつの間にか後ろにいたサーシャが言い出す。
「ええ、もちろん!」
ああ…、また厄介な事になってきた。と思う俺であった。




