勇者、叱られる
船酔いには睡眠が良い。
そんなアドバイスをリリスから
レクチャーして貰った俺は航海が終わるまで寝る事にした。
しかし、気持ち悪くて寝付けない。
ううむ…。どうしよう…。
そして広間で横になってる俺に対しユフィアがまた「大丈夫ですか?」と
言わんばかりにゆさゆさと俺を揺すってくる。
頼むからやめてくれ。
寝付くために俺はとある方法を考えた。
「おい、ユフィア。船員に言って桶に水を汲んで貰ってこい。」
そう俺が言うとユフィアはコクコクと頷いて行動に移す。
少し時間が経ち、目を瞑ってる俺に対し
ユフィアが服の裾をちょんちょんと引っ張る。
無事に桶に入った水を確保出来たようだ。
「よし…。」
俺はユフィアの頭を撫で、水を張った桶を眺める。
そして、呪文の詠唱を始める。
「我、此処に来りて眠の言霊を綴る…。」
呪文をかける相手は自分自身。
水を張った桶に映る自分自身に呪文をかけ俺は無理矢理眠りにつく。
次に目が覚めた時、船はコステアスに到着し
乗客は俺のパーティだけとなっていた。
フラフラっと立ち上がる俺に
「ちょっと…、クロム大丈夫?」と俺を気遣うサーシャ。
「ああ、大丈夫だ…。」と俺は返答し
スッキリとまではいかないがそれなりに気持ち悪さは治まっていた。
船内の広間から船の甲板に出て辺りは夜となっていた。
「ここがコステアスか…。」と俺が呟く。
アーシェが一番に船から降り、
「宿を探してくるから待ってろ。」と言われた。
アーシェの姿が見えなくなってからサーシャは「礼拝堂見てくる!」と言い、
船着場を離れリリスは「冒険者ギルドに行ってきます!」と言って
それぞれ勝手に行動しだす。
そして、ぽつんと取り残される俺とユフィア。
くいくいっと俺の服の袖を引っ張るユフィアが「どこか行かないの?」と
聞きたそうにしていたが俺は首を横に振った。
ここで俺までいなくなったら本当にパーティはバラバラになってしまう。
まだよく把握してない街だし勝手に出歩くと俺自身が迷子になる自信があった。
船着場で待つ事、四半刻ほど。
アーシェが帰ってきて「他の奴らは?」と俺に聞いてくる。
「サーシャは礼拝堂、リリスは冒険者ギルドに行ったぞ。」
置いてかれたことに文句を言うわけじゃないが勝手すぎだろ、
うちのパーティは…。
「何故お前がちゃんと仕切らんのだ。」
蔑むような目で俺を見るアーシェからのお叱りを受け
ごもっともです、と思う俺。
「とにかく、探しに行くぞ。礼拝堂と冒険者ギルドだな?」
アーシェが俺に確認する。
「ああ。」と俺が短く答える。
今度からちゃんと仕切ろう。
心に誓う俺だった。




