勇者、説得する
まずいな、まずすぎる…。
俺はこの状況に焦りを感じた。
まずは最悪の事態を想定しよう。
1、ジイが俺を魔王と仲間にばらす。
2、ジイが船を沈め仲間を皆殺しにする。
3、俺が城に連れ戻される。
さぁ…、どうする俺!?
そこでサーシャが口を開く。
「ねぇ、クロム。あのお爺さんアンタの事見て「若」って言ってるけど知り合いなの?」
ぶっ、核心を突いてきやがったこのアマ!
「い、いや。まぁ昔の顔見知りだ…。」
こう答えるしかなかった。
もしジイがぽろっとでも俺の情報を流す事を考慮したら
これが今一番言えるベストな言葉だ。
海面から浮上したジイはローブがびしょびしょ、髪がぐしょぐしょ。
オマケに俺をガン睨みしてやがる。
「若!これはいったいどういうおつもりですか!?」
あー…、もうこりゃ誤魔化せないな。
「わりぃ、ジイ。その風貌を見て敵だと勘違いしたわ。」
誤魔化しに入る俺。
「なんと!このジイの顔をお忘れになったのですか!?」
よよよ、と泣く素振りを見せるジイ。
さて、ここからが問題だ。
如何に俺が今勇者として旅をしてるか魔王軍のジイにバレない事。
如何に俺が勇者パーティに魔王だと言う事を知られない事。
現状、勇者と魔王の二足の草鞋を履く俺には
絶対に今ヤバイ状況である事には変わりはない。
「ジイ、今ちょっと訳ありでな。一旦引いてくれないか。」
ダメ元で聞いてみる。
「何をおっしゃいますか!今、城は大変な事になってるのですぞ!」
やっぱ引かないジイ。
横でサーシャとリリスが何か言いたそうにしてるが
俺とジイの会話で割り込ませないようにする。
コイツらを誤魔化すのは後だ。
「あー、そっちはジイがいるんだし他の幹部もいるだろうが…。なんとかしてくれよ。」
俺が怒るジイをなだめるように言いくるめようとする。
「それはなりませぬ!若がおらぬ今、全ての決定権が貴方様の叔父上に委ねられてしまうのですぞ!?」
全ての決定権というと…。魔王軍の軍事責任力みたいなものか。
「それの切れる期限はいつだ?」
俺はジイに問いかける。
「まだ多少の猶予はありますがこれから3日以内までに若がお帰りにならない場合は…、と会議で決定しましたぞ!」
だから、ジイ自ら降臨したのか。と納得する俺。
「短い、90日くらいにしろ。」
俺がジイに言う。
「そ、それは無理ですじゃ!上層の派閥問題もありますし何より魔王…。」
その言葉をいいかけた直後俺が言葉でねじ伏せる。
「俺の言葉が聞けないのか?」
全力で殺気をジイに向ける。
「む、ぐぅ…。」と俺の本気を確認したのかジイが唸る。
「もし、上層の奴らが文句たれるようなら直接俺に会いに来いと言え。」
俺はそう言うと懐から念思石を取り出しジイに投げる。
念思石とは自分の今、思ってる事をいちいち紙に文章で書かずとも
高位の魔術師ならその言葉を引き出せるというマジックアイテム。
「今はそれで引き下がれ、これは命令だ。」
俺は殺気を込めた冷たい視線でジイに言う。
「ぐ、むぅ、お心のままに…。」
そう言うとジイは転移ゲートを開き、姿が消える。
念思石に詰めた思いの内容は
俺自身魔王になったばかりで世界状況を把握する為旅をしている。
そして各国の戦を見て回り、今は魔王城に向かっている。
という内容にしておいた。
この内容ならまぁジイは納得するだろう…。他の幹部連中は知らんが。
さて…。あとはコイツらの後始末だな…。
横で一部始終を見ていたサーシャとリリスが
内情を聞きたそうにうずうずと構えていた。




