勇者、追手に会う
「勇者さん!あれって…!」
海水が渦を巻き宙に浮き上がるのを見てリリスが戸惑うように俺に言う。
「あれはかなり高位の魔法…、この船を狙っているのか。」
船の行く手を阻むように渦は船の前に立ちはだかる。
「何があったの!?」
同じく甲板に出ていたサーシャがやってくる。
「俺にもわからん、だが間違いなく敵意はあると見える。」
俺は率直な感想をサーシャに言う。
その時、宙に浮く人影から声が聞こえた。
「若!探しましたぞ!!!」
若…?
その声には聞き覚えがある。というか一番聞きたくない声であった。
姿を見せたのは胡座を組み渦の上に座る老人。
げ…、やっぱアイツかよ!?
その正体はかつての親父の片腕で
俺の教育係でもあった魔王軍の大臣「ギルティア」、通称「ジイ」。
齢900歳であり、かなりの高齢だが俺はコイツ以上の魔術師は知らない。
「やばいな…。」
追手がそろそろ探しに来るだろうと
思っていたがジイが直接来るとは思わなかった。
心の中で呟いたつもりが口に出して言ってしまった。
「ええ、やばそうですね。あの魔術師…。」と
リリスが言い、続けざまに
「若って何の事でしょう?」と聞いてきた。
…正直、こっちもやばい。
「いや、何の事かわからん!とりあえず奴を潰すぞ!!!」
俺は早口でそう言うと魔剣「リベレーター」を鞘から引き抜き、
ジイに真空波を放つ。
最悪に敵にしたくない野郎ナンバーワンかもしれない
お目付け役のジイが俺の真空波をいとも簡単に避ける。
「若!何をするおつもりですか!?」
ジイが何か喋ってるがパーティメンバーに聞かれたらまずいので
とにかく真空波を連打で放つ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
10回、20回、30回と繰り返し真空波を浴びせ続ける。
そして、ヤマ勘で打ち続けた真空波が渦を操る【触媒】に当たり、
ジイは海へと転落する。
「ちょ、若あぁぁあああああああ…。」
【ザッバーン!】
ふぅ、何とか難は切り抜けたか…。
俺はホッと安堵したがその瞬間、
「何をするのですか若ぁあああああああああ!!!」
【ザバーン】と海面から浮上するのは魔族というか、もはやモンスターに近い。
やっぱこのジジイは一筋縄じゃいかないよな…。と焦る俺であった。




